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[コメント] 言の葉の庭(2013/日)

新海先生が童貞を卒業したと聞いて見に行ったのだけど、童貞は卒業したかもしんないけど、ナルシ―なんはそのまんまやん……とげっそりした。
れーじ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







絵はきれいだし、絵はきれいだし、それから絵もとってもきれいなんだけど、それだけ。

端的に言うと、感情移入できないのである。萌えないのである。

もう全然ダメ。こういう話で感情移入できないとか、もう駄目の駄目駄目。

和歌の謎かけを残して立ち去る女性とか、靴職人を目指す男の子とか、もうその初期設定の時点でアホか、あの唾棄すべき自分勝手な恋愛ごっこ映画『耳をすませば』と一緒か、メルヘン病かお前は、とそれだけで萎えまくる設定なのだけど、そこはひとまずよしにしよう。

問題は、その初期設定でキャラクターの個性を出した気になって、観客がこのキャラクターたちに感情移入をするための手順を全然踏んでないドラマのまずさにある。

主人公がワナビッ子でもヒロインが飲んだくれメルヘン女でもいいんだけど、感情移入させてくれりゃそれで話にも乗れるのに、自分はそこに対する創意工夫を感じられなかった。乗れなかった。 もしかしたら何がしかやろうとしていたのかもしれないけど、少なくても僕には何も感じ取れなかった。

キャラクターに感情移入させるってねえ、簡単じゃないんですよ。

「お」と目を引くような特徴を見せるだけでは全然足りなくて、その価値観の中で生きるキャラクターを、現実に生きる者と観客に幻視させるよう、情報を積み重ね、心理を露わにし、あるいは観客の視線を誘導して想像を膨らませ、ありとあらゆる手管を使わんといかん訳ですよ。

たとえば主人公の靴職人になりたいという設定。

分からないです。一般人の僕には、何で世の中にたくさんある職業の中でそんなマイナーどころに惹かれたか、皆目わかりません。 過去の回想みたいなんでそれっぽい説明をしているつもりのシーンもありましたけど、あれで皆さん、納得できます? 僕は全然できませんよあんなんじゃ。

何でわざわざ靴職人なんだというところが謎のままでも、靴を作るのが本当に好きなんだ、というのが伝われば、「趣味に没頭する楽しさ」をガイドに感情移入することもできたかもしれないけれど、それもなし。 デザインを起こしたり、型を作ったり、そういう作業は確かに事細かに丁寧に描かれていたけど、ここで重要なのは丁寧さであったりリアルであったりすることではなく、その作業が楽しくて仕方ないと感じているキャラクターの表情の描写でしょうよ。そうすれば、「あ、こいつ可愛いな」と思って観客と主人公の距離を縮めることもできただろうに。

そういった手順がですね、全然足りないんです。

(皆無ではないんだけど。ヒロインから本もらって喜んでる姿とか。でもその本がやたら分厚くて小難しそうで、感情移入するのに壁を作ってる。描きかけのデザイン覗かれて嫌がるとか、絵描く人間にはあるあるだけど、絵を描く人間じゃないと伝わりにくい)

この映画ね、観客に分かってもらおうって努力全然してないんです。分かってもらうのを待ってるだけの映画なんです。

そんな状態で、初期設定の説明が済んだ段階で早々に「惹かれていく……(ドヤァ」とか言われても、ハァ?(゚Д゚)ですよ。

ナルシーな映像作家が、自分勝手にきれいな絵を描いて、自分勝手に自分にとってキモチイイ言葉を吐かせてる、それだけの映画になっちゃいますよ。

最後のシャウトとかそれなりに胸にも来たけど、あくまで「それなり」で、うまく感情移入の波に乗せられたらこれボロ泣きもできたろうに、もったいない限りだと、そう思っちゃいますよ。

新海誠はエロゲの文脈で育ってきた作家というのは間違いないんだろうけど、エロゲの世界で積み重ねられてきた感情移入と萌えの技巧についてはなーんにも学んでこなかったんだな、とつくづく思ったのでした。

(評価:★3)

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