[コメント] 風立ちぬ(2013/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
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実人生の描写に夢のシーンが沢山挿入されるので、若干複雑に感じられるところもあるが、私が「プロットの運びが直線的である」というのは、人物が一切逡巡しない、という点に顕著だ。例えば少年期の二郎は飛行機の設計者になる、ということに迷いがない(パイロットではなく)。或いは交際の申し込みと受諾のやりとりの潔さはどうだろう。或いは菜穂子が山の療養所での生活を捨て、結婚、同居を経てまた療養所へ戻る一連の展開についても何と決然たる行動だろう。これら実人生の「あらすじ」的部分について、感情の機微を含めて殆ど描く気なんかないのだ。だが、そんなことはもうどうでもよい。ただひたすら「飛ぶ」ことと「落ちる」ことのアクションを堪能することが本作を楽しむ全てだ。
さて、私は何と云っても軽井沢のシーケンスがいいと思う。特にパラソルと紙飛行機を使った、「飛ぶ」「落ちる」だけでなく「飛ばされる」、或いは、「投げる」「つかまえる」といった映画的な交換のアクションが満載で、興奮する。主人公が設計者(パイロットではない)ということにより、彼が飛行機に搭乗するシーンでは(冒頭の夢以外では)、「落ちる」スリルが全く描かれないのだが、この軽井沢での紙飛行機のシーンでは主人公と同化し「落ちる」スリルを共感することができる。といった意味でもこのシーケンスはワクワクする。
そして本作が良いと思う、もう一つのポイントは、『ハウルの動く城』以上の純粋な恋愛映画である、という点だ。上で記したように深みのある描写は無いのだが、それでも二人は何度もキスをする。初夜に同衾する部分でさえ臆せず描かれる。結核なのに、っていうところで余計にわざとらしくもあるのだが、しかし全ての映画は恋愛を描くべきだろう(ちょっと云い過ぎ)。私は『カリオストロの城』を公開年に(名画座でだったが)見たときから、宮崎駿には恋愛を描いて欲しいと思っていた。こんなに待たされてしまったが、私にはやっと描いてくれた、という感慨がある。
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