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[コメント] キック・アス ジャスティス・フォーエバー(2013/米=英)

一切の化学変化を起こさない、実にちゃんとした映画化作。つまり、つまらない。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 スマッシュヒットを飛ばした『キック・アス』(2010)の続編。

 一作目はいろんな意味で驚かされた作品だった。何の力も持たない覚悟だけしか持たない一般人がヒーローになれるのか?というところから始まって、ヒーローとは一体なにか?という根本的な部分まで考えさせられたものだ。

 そして本作の場合、一作目とは大きく方向性が違っている。非常に原作準拠の話の話と言える。

 キック・アスことデイヴは正義の心を持った人物ではあるものの、その正義というのは自警団を超えるものではなく、更に自分一人で判断することができない。自分がやってることが本当に正しいかさえも分かってない。ちょっとだけ正義感が強いだけの普通の男である。だから自分を受け入れてくれる人がいたら、それにくっついていくし、自分を肯定してもらいたがっているだけ。だからこそミンディに自分を認めて欲しいと願ったし、スターズ・アンド・ストライプという胡散臭い人物に身を寄せることになる。その結果、セックスフレンドにも恵まれたものの、それも流されるまま。

 そして、その浮ついた性格が危機を呼び、最終的に自分の父の死という手痛いしっぺ返しを食うことになる。

 …という事で、前作に比べてますますイタいキャラとして設定された主人公。一作目であれだけのことをやった上でこれだけの勘違いキャラが出されてしまった。

 正直、この時点で本作は失敗とも言える。肝心な物語が悪すぎるのだ。

 だが、そんな情けない主人公と、どうしようもない物語の中で、本作にはこれ以上ない売りも又存在する。

 他でもない。ヒット・ガール役のクロエ・グレース・モレッツの事。今回は主人公なんぞいい加減でも構わず、ただ彼女を撮影することだけに特化した作品と言っても良いくらい。

 なんというか、揺れ動く思春期の危うい美しさと言うべきだろうか。全編を通して不安定な感情をもてあます姿はまさにアドゥレセンス。今のクロエだからこそ出来る最高の演技が出来た。それだけで本作はもう充分と言えよう。色々悩むものの、最後には完全に吹っ切れてやりたい放題やる爽快さにも、彼女の描き方の正しさが表れている。

 キック・アスもヒット・ガールも本作では不安定なのだが、それをキック・アスは痛々しさに、ヒット・ガールは美しさへ。それを対比して見せたのが本作の最大の利点であろう。

 正直、このクロエを観るだけでも本作を観る価値がある。それだけで楽しめることは請け合おう。

(評価:★3)

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