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[コメント] ある秘密(2007/仏)

汚れた鏡。上半身裸の男の子(10歳ぐらい)が近づいて来てフォーカスが合う。プールの脱衣場だったのか。お母さんと2人で歩く少年フランソワ。その後ろ姿。お母さんのタニア−セシル・ドゥ・フランスは、黒い水着がカッコいい。
ゑぎ

 お母さん−タニアは、飛び込み台からジャンプする。飛び込み台から始まるというところで『なまいきシャルロット』を思い出す。この冒頭は1955年の設定。また、同じ汚れた鏡を使ったフォーカスインがもう一度出て来て、フランソワ少年が高校生ぐらいになった時間にジャンプする、という繋ぎがある。

 本作の主要登場人物は、フランソワとタニアとその夫(フランソワの父)のマキシム−パトリック・ブリュエル、及びマキシムの前妻アンナ−リュディヴィーヌ・サニエの4人と云っていいだろう。大人になったフランソワはマチュー・アマルリックが演じており、アマルリックのシーンの時間(本作における現在)は1985年だ。また、アマルリックの場面だけ(エピローグは除くが)、モノクロの画面で、過去がカラーという趣向の映画だ。

 では、誰が主人公かと考えた際に、プロットの語りべ的存在はフランソワ−アマルリックだし、多分、出番(映っている時間)では父親のマキシム−ブリュエルが一番多いように思ったのだが、しかし、プレゼンスという意味で圧倒的なのは、冒頭でも強烈に印象付けられる、タニア−フランスだと私には感じられた。アンナ−サニエもプロットの鍵となる人物で、タイトルの「秘密」は彼女が体現していると云ってもいい役なので、勿論重要なのだが、セシル・ドゥ・フランスに比べると(ワザとかも知れないが)、魅力的に演出されていないと感じた。例えば、セクシーシーンもサニエの場面の方が大人しいのだ。

 ただし、プロット構成上、タイトルの「秘密」を扱った、サニエの場面が一番興味深い(素直に「面白い」と云うべきだが、心苦しい気持ちにもなる)。彼女が登場する1930年代後半から1944年頃の場面は、ナチスの台頭とその占領下(ヴィシー政権、ラヴァル首相体制)の時代であり、俄然、緊張感が増すのだ。主要人物たち家族は皆ユダヤ人なのだから。

 本作も、社会的テーマ性(とその主張)や衝撃的なプロット展開が高く評価されている類いの映画だと思うが、画面造型上の達成という意味でも非常に良く出来た、充実した作品だと私は思う。その例として、いくつかの反復の面白さを上げておこう。まずは、上にも書いた、フランソワの登場と成長を同じ鏡を使った演出で見せる部分なんかもあるが、他にも、中盤、アンナ−サニエとマキシム−ブリュエルのラブシーン(サニエが脚を広げてブリュエルを受け入れるショット)に、出産時のアンナを繋ぐというマッチカットがあり、終盤になって、マキシムとタニア−フランスのベッドシーンにマッチカットで出産時のタニアを繋ぐ、という相似のマッチカットを2回繰り出す演出には思わずニヤリとしてしまった。あるいは、フランソワ−アマルリックの時制での、年老いたマキシム−ブリュエルが飼っていた犬の扱いと、フランソワが幼き日に物置き部屋で見つける、くたびれた犬のぬいぐるみ。そして何と云っても圧倒的なのは、タニア−フランスの黒色の水着の反復だ。彼女はどの時代でも、黒い同一の水着姿で、プールや川辺を背景として登場し、画面を(いや映画の感情を)席巻してしまうのだ。

#備忘

・マキシム−ブリュエルたちが疎開した先で『大いなる幻影』の話をする。

・隣人のルイーズは、ジュリー・ドパルデュー。この人の存在もとてもいい。

(評価:★4)

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