佐藤泰志の函館三部作と言われる作品の中の二作目。ぜひ『オーバーフェンス』の上映の前に『海炭市叙景』も抑えておきたいところではあるのだが、いかんせんレンタルショップに置いてないものでお手上げ状態です。

今をときめく菅田将暉がメインキャストですが上映当時は知らず、「池脇千鶴は見たいけど綾野剛が主演なのはなー。」と悩んだ結果、なかなか見るに至らなかった。 しかし、本作で綾野剛の評価も格段に上がったかな。というよりも役柄にハマっていたというか、こういう静かで闇のある役が似合うんだろうな、という印象を受けた。正直この人は下手に明るい役をこなそうとしても上手くハマらない気がするので避けるべきだと思う。 それに引き換え菅田将暉の演技の幅には正直驚いた。カメレオン俳優とか巷では言われているようですが、その通り名もあながち誇張ではなさそうだ。もちろん綾野剛も含め池脇千鶴の安定感ある演技などキャストの演技が本作では輝いているのだが、菅田将暉はその中でも図抜けている。がさつで不潔で馬鹿で明るくて、でも憎めない。圧倒的存在感。キャラクターとかそういう枠を超えて、間違いなく演技の魅力だと思う。

菅田将暉演じる拓児だとか千夏だとかを見れば一目瞭然なのだが、本作は結構リアルで生々しい現実がありありと映される。生々しさで言えば千夏の濡れ場も然りだが、タイトルの『そこのみ』は「底」だと解釈もできるんじゃないかと思うほど、清潔感のない闇に包まれた世界観が広がる。 それなのに序盤で作品に引き込むだけの不思議な魅力がある。その重要なキーマンが拓児であり、彼の有無で本作での魅力は間違いなく変わっていただろう。

そんな現実の中で生きる希望を見出していく。達夫は千夏に恋をし、拓児との仲を深める。拓児が「達夫〜」と慕う姿は可愛くて暖かく、ニケツやタバコとライターのやりとりは印象的。作品に漂うのは大半が闇であり、当然ストーリーも容易に光を見出すことはできないのだが、それでも少しずつ前進していく彼らと闇の中に所々見える光が差すようなシーンの対比は見事。花火や夕日などの物理的な光はもちろん、ラストの達夫と拓児、達夫と千夏のシーンはグッと心が温められる。 最終作『オーバーフェンス』が楽しみだ。