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[コメント] ビッグ・アイズ(2014/米)

冒頭、車の走行を捉えた数ショットの見事なフレーミングにバートン復活かと期待するも、面白いのはその部分だけ。物語が、人物の感情が動く決定的瞬間を捕まえたショットというものが不在だ。何が「虚」で何が「実」か。何を「見て」何を「見なかった」のか。この辺に全く敏感でないし、光と影やアクションで家族各々の立場を示す演出も不足。演技だけが突出し、サスペンスも無し。どの場面も途中で飽きる。
赤い戦車

例えばイタリア野郎が作者は誰だと問う場面。ここは妻が夫との断絶を明確に感じる重要な場面のはずだが、バートンは1:夫妻のBSに緩やかにズーム2:妻の横顔のアップ3:再び1。夫が「私だ」と嘘をつく。4:妻の後頭部を手前に、イタリア人と話す夫を後景に。5:再び1へ。6:イタリア人と話す夫(妻の視点)7:再度1へ。という7ショットでこの瞬間をやり過ごしてしまっている。特に2のアップショットがあまりに曖昧で、「とりあえずアップを撮って挿入しておいた」という演出的安易さに満ちていやしないか。

ここは1から切り返して2:イタリア人の右往左往する瞳の動き3:再び1。4:夫が「私だ」と言って前に踏み出したとこで妻の横顔へ。夫を見やり、その辺のグラスを手に取り飲んで視線を下に伏せる。喝采を浴びる夫と、バーの群集の中に埋もれていく妻。と、した方が立場が明確になり、より面白くなるのではないか。

また、クリストフ・ヴァルツは家庭内では殺人鬼のように撮られるべきであった。娘が妻のアトリエに踏み込もうとする場面もサスペンス創出に失敗しているから全く盛り上がらない。ヒッチコックは『舞台恐怖症』の敗因を、「登場人物が誰ものっぴきならない状況まで追い込まれないこと」と分析していたが、本作にこそ当てはまるんちゃいますかね。お前ら、もっと必死で生きろや、ていう。逃亡先のハワイでセレブ生活してんじゃねえよ笑

(評価:★2)

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