[コメント] オン・ザ・ハイウェイ その夜、86分(2013/英=米)
なんとマゾヒスティックな、快感! 自暴自棄寸前で踏み止まるこの誠実な主人公と共に、観客である私(男)もまた、86分間、自虐的悦楽に酔いしれる。きっと彼が追い詰められた、いや、自ら引きこもった「この境遇」は、世の男をとりまく全ての軋轢の象徴だがらだ。
なんと言っても見事なのは、見えないものが見えてくる脚本と緊張感を絶やさない演出。夫の突然の告白に狂乱し自分を見失う妻。両親の不穏を察知しながらも平静をよそおう子供たち。負わされた責任の重圧に押しつぶされそうになりながらも奮闘する部下。病院のベットで孤独と不安と苦痛に耐えながら運命に身をまかせる女。
声だけで、誰ひとり画面に登場しない「そんな登場人物」たちの一挙手一投足が、困惑、不安、怒り、哀しみとともに、まるでそのシーンが視覚的に存在しているように目に浮かぶ。観る者の想像力を刺激し続けながら物語のなかに引き込む巧みなテクニック。ジャンルは異なるが究極の一人芝居である「落語」の語り口(技術)を想起した。
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