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[コメント] バケモノの子(2015/日)

良作には違いないが、オリジナリティの無さと後半の駆け足演出が気持ち悪い。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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 作品の出来そのものは良かったと思う。どんな世代の人に対しても鑑賞に堪えられる強度を持っているし、物語のテーマとなる“家族を作る”ことは、私にとってもツボだ。これまでの細田監督作品の中でも、最も一般受けのする物語だろう。

 物語展開も引っかかるところはそんなに無くて軽快に進み、きっちり終わらせてくれる。

 ただ、その軽快さがちょっと引っかかる部分がある。前半の九太として渋天街への受け入れはじっくり描かれていて、それは良かったんだが、後半になって、蓮として渋谷に戻ってきた辺りから、嫌な意味でのアニメーションのテンプレートが多用されるようになり、なんでこんな月並みな描写するのかとうんざりさせられる所が多々。  野暮だがいくつか挙げてみよう。図書館での楓と蓮の出会いのシーンは、お互いに取ろうとした本が近くにあって手が触れ、それで意識したというもの。これが現実に起こることはよっぽどでなければ無いと思うんだが、アニメではテンプレートとして存在し、それを悪びれずに使ってしまうシーンは相当に醒めたし、蓮に手を出す高校生を一瞬にしてノすシーンは音だけ。ここは実は蓮という男を上げもするし下げもするシーン。それを描写もさせないとは勿体ない。特に人間社会に戻ってからはそう言うシーンばかりになってしまうので、もっと葛藤やらバケモノの子として成長してきた自分自身のアイデンティティの持って行き方とか、そう言う大切な部分をすっぱり外してしまっていたので、それがちょっと落ち着きを無くさせてしまう。人間社会への受入が余りにもスムーズであり、二つの世界を普通に行き来しているために、最初の設定バケモノとは違い人間だけが闇を心に持つという設定も活かしきれず。

 あとこれはとても重要な点なのだが、いきなり終わり近くになって暴露された一郎彦の正体も、伏線も何も無し。これを衝撃的に捉えさせるならば、全編を通じてもっと絡ませなければならないのに、それが出来ておらず、一郎彦の持つコンプレックスがいきなり吹き出たようになってる。もっと描き方があったよな。物語は一郎彦との対決がクライマックスになっているのだから、蓮と一郎彦をきちんと対比して持っていって欲しかったところだ。勿体ないというか、描写不足としか言いようがない。

 ただ、前述した通り、物語の基本路線は私のとても好みであるし、特に熊鉄が魅力的だったのは大きなアドバンテージ。やっぱり役所広司は巧いし、生活力が全然無く、見栄で“弟子”を取っただけの熊鉄が、九太を実の息子として考え始め、思春期を見守り、最後に息子を守るために自らを犠牲にすると言う下りはベタ故に素晴らしい。むしろこちらの方を物語の中心にしてくれれば。とも思う。こう言う作品は小手先に頼らず、王道で良いんだよ。そのまま『狐の呉れた赤ん坊』(1945)の逆バージョンにしてしまえば良かったんじゃなかったかな?

(評価:★3)

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