コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] ボーダーライン(2015/米)

善も、悪も、混沌のままに制度化=秩序化され、維持される。悪は善として、善は悪として。境界線上に立つものだけが、全てを知っている。国家が形骸化してなお、制度化が、カルテル側も、対するアメリカも、「家族」の論理に基づいている限り、この物語に終わりはないだろう。
DSCH

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







国家の法が無力な最前線でも、状況と人の感情は自由にはなっていない。デル・トロは「家族」に縛られている。ある警官は、運び屋を担うことで家族を養っている。カルテルのトップも、家族を養っている。この秩序は、悪でもあり、善でもある。このバランスは、崩されてはならない。崩されてはならないところまで取り返しがつかなくなってしまったのだ。バランスを崩したものは、殺されなければならない。言ってみれば、これが「法」ということだ。

家族の前で、善悪の区別は意味をなさなくなる。「制度化」「バランス」が肝要であることを理解しているデル・トロは、いずれ、家族のために「バランス」を破壊した自らが、「バランス」のために、家族の論理のために、自分が殺した誰かの家族に殺されることを理解しているだろう(例えば、運び屋警官の息子に)。そして、それでもなお、何も終わらせることができないことも。疲れた風貌の裏に苛烈さを秘める一方、この諦めと理解が滲んだ演技が絶品。

状況についてどこか諧謔的、嘲笑的なワーカホリック、ブローリンも良い。不気味な軽薄さと手際の良さ。やっぱり上手いなあ、と。

(評価:★4)

投票

このコメントを気に入った人達 (3 人)jollyjoker[*] 週一本 けにろん[*]

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。