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[コメント] FAKE(2016/日)

「事件」について何も知らずに観たが、それでも色々感想が湧いた。熟知したうえで観たらもっと面白いのだろう。しかしそのために週刊誌のバックナンバーをひっくり返す気にはならない。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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嫌いというより時間の無駄と判っているので、ワイドショーや週刊誌の類はここ十年ほど殆ど見ていない。本作の鑑賞に必要だろう予備知識は殆どなかった。だから、色々と興味深い作品だと思ったが、それが「正しい」のかよく判らない。以下の感想も出鱈目なのかも知れない。

本当か嘘か判らない、のが本作の主題なのだろう。これに関しては、ひとつは作品でも強調されていたが、佐村河内氏の耳の状態が第三者には判らない、という処に謎が収斂される訳で、ここは複雑だろう。例えば医学の進歩により百年後に名誉回復、ということになるのかも知れない。近年もDNA判定の進歩により冤罪となった事件もあったのであり、現行の判定を妄信してはいけないのではないか、という感想を持った。

もうひとつは、そうは云いながら、本作は佐村河内氏の云い分が本当である、という映画になっていること。アンチテーゼを出してどうよ、と世間の常識を揺るがすのがこの監督の面目躍如なのだが、それ以上の、『ゆきゆきて、神軍』のような「真実か嘘か」の判定についての思索にまで踏み込んだ作品にはなっていない。例えば本作を観る限り、佐村河内氏への奥さんの寄り添い方はとても美しいものがあり印象に残ったが、メディアを妄信するなと云われるのであればこれも疑わしいとなるだろう。本作も我々にとってはメディアなのだから。しかし本作はそのような疑念、云わば自己言及を禁止しているように見え、そこにある種の不自由と限界を感じる。ラストの作曲された音楽は感動的に撮られているが(ピンク・フロイドの「Atom Heart Mother」から毒を抜いたような作品で私は退屈したが)、この、ひとりで作曲ができたってことが世間的には驚きなのだろうか。しかしそれなら何で新垣某氏に共作を頼む必要があったのかがよく判らない。

ラストは「私に嘘をつきましたか」という質問に沈黙する佐村河内氏の姿。私は、これは沈黙というより云い淀んでいるのだろうと思った。物事を必要以上に哲学的に受け止めてしまう人はいるものだ。全く嘘のない会話などあり得るだろうか、と彼は逡巡したのではないだろうか。そう考えるのが自然であるほど、本作で佐村河内氏は実直な人として捉えられている。こういう芸術家肌の性格の人は、マスコミに出て物事説明するのは苦手だろう。気の毒なことだ。

本作で一番面白かったのは来訪する某テレビスタッフ。ギョロ目の男が丸い顔突き出して、隣には苦労人風の男が眉に皺を寄せ、まるで刑事の尋問コンビのようで、お笑い番組だが貴兄を真面目に扱うという嘘を真顔で並べる。これほど真面目な顔で嘘をつく人間を見るのは、それこそ『ゆきゆきて、神軍』以来だなあという、ドキュメンタリー特有の感慨があった。しかし、連中がそんな程度のものだろう位のことは改めて教えて貰わなくでも知っているのであり、結局今後も私はワイドショーもお笑い番組も見ないし、このような作品がこれから先撮られても相変わらず訳が判らないだろう。

もっと巨悪に取り組んでくれ、というのが一番の感想。週刊誌賛美の風潮のある昨今、例えば舛添前知事にアタックするなど如何だろう。いやマジで。

(評価:★4)

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