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[コメント] シン・ゴジラ(2016/日)

「会社」が作ったものより、「優秀な個人」なんですね。少なくともエンターテイメントに関しては完全に。
おーい粗茶

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







映画もゲームも駄目になる一方でマンガや小説が一定の高レベルを継続しているのはそこでしょ。それが証拠にマンガも小説もより個人度の高い同人勢力がプロ勢力と並列してる。並列どころか同人のメジャー化で、逆に同人のほうが駄目になっていきそうなマンガ界よりも相当に遅れてる映画界では、エヴァという自主映画をヒットさせたメジャー同人作家に初めて全てを託す試みがなされ、成功したと思うのが本作だ。

ファンの人からすれば、私は、ゴジラにもミリタリーにもそんなに関心も知識もなく、ああこれって基礎知識があればすげー興奮するんだろうな、と自衛隊の火器兵器のテロップを、呆然と眺めてたけど、作家がこだわって作ってるものって、それが自分にはよくわからない妙なこだわりでもだいたい面白いんだよね。熱が伝わるから。ただ、あんまり趣味に走り過ぎても失敗することもあって、月並みだけど仕事と趣味のバランスがとても大事。

いいタイミングだったのは、監督がエヴァの自主制作に煮詰まっていたところでの発注仕事だったこと。受注して納期も守る、というスタンスで職人仕事に徹するという、かなり気分転換になったはず。モーツァルトもフェリーニもいい受注仕事をしているし。東宝→庵野、庵野→樋口への発注・受注という、契約という制約がすべてにいいほうに向かったと思う。話やドラマ演出はともかくも、東京を舞台にした白昼の攻防、夜景の東京の高層ビルをぶったぎるビジュアルは間違いなく世界に勝ったと思う。

シン・ゴジラって震(災)・ゴジラなんだと思う。空襲・原爆・水爆のメタファー初代ゴジラ、そして東日本震災・原発事故のメタファーのシン・ゴジラ。作り手もそうだけども観客も同様で、人間は知っていることしか想像できない。フィクションでリアルな描写というけど、知らないことはリアルと思わない。今回のゴジラの巨大感とか国家の対応の様子って、津波のスケール感とか、原発事故の処置のあり方とか、事前に「知ってる」からまあ見れたんであって、この経験を通さずに本作の制作も鑑賞もありえないんだと思う。そういう経験レベルの向上がない時代に作られたものなら、たぶん本作は「何が言いたいのだろう」と、失笑を買っただろう。『クローバーフィールド』での粉塵の描写、スピルバーグの『宇宙戦争』の逃げ惑う人や、尋ね人の手書きのメモの貼り付けられたメッセージボード、本作の品川宿のガレキの山。知ってるからやっと鑑賞(理解)できるようになったのだ。(ガレキの山を品川の古い木造家屋のものにしたのは、それしか我々は知らない。ほんとに巨大な物理的な力でこなごなにされたコンクリートのビルのガレキを我々は映像レベルではまだ表現できない。マンガではあるけど)。

まあ、それで言うとゴジラこそそれの最たるもので。今回のゴジラを鑑賞できるのは、やはり我々がゴジラを知っているからなんだよな、と改めて思う。むかしたけしのギャグで、等身大ゴジラの足の模型をみて「ほんものそっくり!」って言ってたレポーターがいたっていうのがあるけど、まさにそれ。

シン・ゴジラが次のリアルな創作にとって大きなクサビをうったのは間違いないでしょ。

(評価:★5)

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