[コメント] ムーンライト(2016/米)
シャロン役に3人の俳優を配したことで悲しみの深さがより印象に残る。成長と共に容姿は変わっても、心の傷は日ごとに深さを増し“おびえ”となって目に宿り続けるさまが痛々しい。彼が背を向けたとき、視線から解放された私を、安堵と同時に後ろめたさが襲う。
子供時代のリトル(アレックス・ヒバート)の居場所のなさは、10代のシャロン(アシュトン・サンダース)の戸惑いとなって、成長したブラック(トレヴァンテ・ローズ)の鎧として顕在化する。だが、子供の頃からの宙を泳ぐように彷徨い、焦点を結ばない不安そうな目だけは変わらない。
ブラック(成人したシャロン)の”作られた威容”は、彼の心の歴史を知るケヴィン(アンドレ・ホランド)には、驚きとともに“はらみ続け、肥大化した悲しみ”がもたらした必然の結果としてすぐに理解できただろう。二人の再開がもたらしたブラックの安堵とケヴィンの戸惑いは、均等ではなく、少し歪んだ「愛情」と「同情」が混在する曖昧な補完関係として提示される。
ラストショットに込められた二人の“塊り”は、傍観者である私の理解を拒絶して、私は成すすべなく、そこに立ち入れない後ろめたさに襲われた。きっと私が今まで、見て見ぬふりして“さまざまなもの”をやり過ごしてきたからだろう。
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