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[コメント] 家族はつらいよ2(2017/日)

橋爪対西村のショボい覇権争いの愛らしい情けなさよ。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







山田監督の死体ギャグは60年代のハナ肇もの以来だろうか。最近は「らくだ」の翻案で創作歌舞伎も物したとかで(歌舞伎の判らない西村雅彦を子供らが嗤うギャグはこの反映か)、松竹の看板背負っちゃいる(興行収入10憶がノルマだものなあ)ものの、もう高齢、遠慮もなしに好きなもの撮ってちまえという潔さがある。ファン層も高齢だから判るだろうという見切りも込みなんだろう。小林稔侍のアパートの管理人の「いい人から先に逝っちゃうのよね」で倫理観を担保している気配りもいいものだ。

橋爪功主演の近作は中流家庭を描いているのだが、ここに蒼井優の母や小林のアパートが並べられると、やはりこの監督、下層の描写の充実度が群を抜いているように見える。中流への軽い皮肉(落語の範疇だけれど)が、この段差を設けることで際立ったのが本作の成果だろう。

特に「化けて出られると困るから」と火葬に出向く中嶋朋子が圧倒的に情けないが、メイン・テーマである橋爪対西村のショボい覇権争いも相当に情けない。家にいないときの橋爪は随分と善人だったりする。三世代同居という理想と現実が炙り出されている。しかし、作品はこれを愛すべきものとして描いている。思えば事案の特効薬は儒教道徳な訳で、これを禁じ手にした情けない世界を前向きに捉えるユーモアは、喜劇作家のアクチュアリティとしてとても優れている。

弱点は小林逝去の件が盛り上がりに欠ける処で、肝心のブラックユーモアが不発に終わっている。警官の藤山扇治郎は全然面白くないし、劇団ひとり徳永ゆうきも振るわないし、看護師蒼井の活躍も前作より弱い。鶴瓶は渥美清の配置だが、ここで使うべきだっただろうに。

ベストショットは蒼井と妻夫木聡が祖母の見舞いの帰途、ホームで電車を待つ件。蒼井の背後にある駅名のプレートがカット毎に少しずつ見えて、繋げると「しばまた」だと判る。すごいファン・サービス。そしてこの夫妻の立ち位置を明確にしている。

(評価:★3)

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