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[コメント] チャイニーズ・ブッキーを殺した男(1976/米)

これはジョン・カサベテスらしさに溢れたハードボイルド。望遠のアップカットで無造作に切り取られたかように見える暗黒街の世界がむちゃくちゃスリリング。
ゑぎ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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 この映画でもストーリ的な事の成り行きについては終始唖然として見つめる事しか観客にはできない。なぜベン・ギャザラは多額の借金を抱え込んでしまうのか。ギャング達はなぜ中国人暗殺をベン・ギャザラに頼むのか。最終的に、彼が刺客となる理由は借金の減額なのか、ヤクザの暴力に屈したのか。このような疑問にカサベテスは一切応えようとしない。しかし、画面を見つめながら私はそのようなストーリ的な辻褄合わせに全く関心が無くなってしまう。例えば終焉へ向かって加速度的に有無を云わさなぬ展開がなされている訳でもない。いやそれどころか彼が経営するストリップバーのシーンを長々と挿入したりする。出演者達のいざこざを父性的な鷹揚さで収めてしまう経営者としての魅力が語られるシーンだが、それはストーリを効率的に語るという意味合いから云えば、なんの意味もないシーンだ。そう、私はいつしかこのベン・ギャザラの人物像を堪らなく愛おしく感じてしまっている。ストーリなんてどうでもよくなりカサベテスによって恣意的に切り取られたベン・ギャザラをいつまでも見続けたい、という思いにかられている。そしてラスト、上着から滲み出るほど血を噴き出させながら舗道に突っ立っている彼を暖かな眼差しで突き放すカサベテスの心情に徹底的に打ちのめされる。

(評価:★4)

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