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[コメント] 美しき仕事(1999/仏)

舞台はジブチ。外人部隊の上級曹長であるガルー−ドニ・ラヴァンを語り手として、その軍隊生活と除隊までの顛末を綴った映画。なので当然ながら、タイトルの「仕事」とは、直截的には軍隊を意味しているのだが、
ゑぎ

 実のところ、軍隊の仕事の内容や目的(戦うこと、人を殺すことなど)は全くと云っていいほど描かれていず、「美しい仕事」は、それに携わる人間の肉体あるいは運動としてのみ画面に定着する。

 開巻、最初に画面に映る人物は、クラブでダンスする女性。歌に合わせて、ピューと云う女性のバストショット。こゝから全編、カッコいい。それはとてつもなくカッコいいショットばかりだ。地面に映った兵士たちの影。手を挙げて瞑想のようなポーズを取る男たち。荘厳な音楽。彼らの訓練風景では、初っ端の針金の下を急速に匍匐前進する画面の激しさに驚かされる。様々な障害物を飛び越える運動も。また訓練中は、多くは短パンに上半身裸の姿で、肉体の美しさが際立つよう撮られている。

 ジブチの駐屯地は2か所出てくる。最初は海の側の基地で、冒頭のクラブがある町。訓練場面とともに、衣類の洗濯とアイロンがけ、外出してクラブでダンスする風景が反復される。これらも面白い画面。主人公ガルーに大きな影響を与える人物は2人おり、一人は彼が限りなく憧憬する上官のブリュノ・フォレスティエ少佐−ミシェル・シュボール。そしてもう一人が、新しく配属された若い兵士サンタン−グレゴワール・コランだ。一瞬、主人公は男色家かと早とちりさせるが、現地女性との関係も描かれているので、そんな単純なものでもない。眠っている女性に町で売りつけられた小さな箱を渡すガルー−ラヴァン。彼女がうつ伏せの姿勢でカメラを見る正面ショットもまた美しい。

 美しい人物ということでは、若きコランの美貌が圧倒的で、終盤まで、タイトルの「美しき」は彼が体現しているのだと思いながら見た。コランが街中で仲間たちから持ち上げられる(担ぎ上げられる)シーンなど特別感のある演出だ。ちなみに、ミシェル・シュボールは『小さな兵隊』(1963年)のときも全く同じブリュノ・フォレスティエという役名だったので、にわかには首肯できないが、『小さな兵隊』のあの青年が、こんな壮年になったということだ。

 後半、舞台は高原地帯の基地に移る。こゝからは、背景の地勢にも瞠目させられるショットが溢れる。特に、画面奥(画面上部)に山と湖の湾(青い水面)が見え、画面中央に黒い石だらけの地面の上で作業する兵士たちを映したショットには、衝撃が走るようなショックを覚えた。あるいは、終盤のサンタン−コランが彷徨し塩まみれになる塩湖の場面も。

 そして、ドニ・ラヴァンの身体能力だ。それが煙草を喫いながら始まる、というところは『汚れた血』を想起させる。この爆発的な運動。何度もタイトルへの言及に戻ってしまうが、「美しき」はラヴァンの運動だ。いや「美しき」は「素晴らしき」と捉えると、彼の面構え、いや彼の存在が素晴らしい。いや「仕事」を「作品」と訳し直すと、本作自体のことじゃないか。

(評価:★4)

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