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[コメント] ぽんこつ(1960/日)

瀬川昌治の監督デビュー作も、矢張り水準以上の面白い映画だ。冒頭は当時の交通事情のナレーションと、自動車が商店などに突っ込むカットを繋ぐ。スタジオセットでの撮影だと思うが、上手く撮っている。
ゑぎ

 タイトルは主人公−江原真二郎の仕事を表していて、彼は本所立川のポンコツ屋(自動車解体業・古物商)で働いているのだ。というわけで、本作は東京が舞台だが、江原は一人、おっとりした関西弁を喋る(高知出身という設定だ)。ポンコツ屋の社長が上田吉二郎でその娘に若き山東昭子。江原は近所の娘−若水ヤエ子とも仲がいい。そこに、もう一人の主人公と云っていい女子大生の佐久間良子とその友人の小林裕子が絡んでプロットは展開する。

 序盤は、江原のシーンと佐久間のシーンのほゞクロスカッティングだ。唐突に扶桑女子大学での柳沢真一先生のフランス語授業が挿入された後、運動場で、自動車の運転を練習する佐久間と小林の場面になる。二人は自動車部なのだ。運動場を暴走し、体育館に入り、柳沢を追い詰めながら校門を出て近所の空き地へ向かうのだが、こゝのドタバタ演出も上手いものだと思う。ちなみに、この女子大のシーンでは、国会議事堂や皇居のお濠、東京タワーなどが背景に映っている。

 そして、佐久間たちは、卒論を8ミリ映画で作成しようとし、その機材費捻出のため、佐久間の家の壊れたルノーをポンコツ屋に売りに来る。江原がバーナーで切り離した車体の向こうに佐久間が立っている、というカットで、とても美しい出会いのシーンが演出されている。江原は、佐久間たちの8ミリ映画製作を手伝うようになる。

 佐久間と小林が江原の部屋へ訪れたシーン。電気工学を独学で勉強しているという彼は、将来、自動車は太陽エネルギーか原子力みたいなガソリン以外で動く、テレビはポケットに入れて持ち運べる、ラジオは時計ぐらいの大きさになる、時計なんか誰もしなくなる、などと云う。さらに、そんな世界になっても、機械は人間が作るものだから、自分は人間を信じる、と云う。おっとりしていてアホみたいに見える江原だが、案外しっかりしていることに驚く佐久間たち。女子大生二人はいずれも江原のことが好きになる、という展開だ。三人で後楽園ゆうえんちに遊びに行く場面で、ヤクザに絡まれてドタバタした追いかけ合いになる部分も、良く撮れている。あるいは、佐久間と小林が同時に江原に電話をかけたため、混線したまゝ上田吉二郎が受話器を取る、というシーンがあるが、これを3分割のスプリット・スクリーンで見せる処理も、才気を感じさせる演出じゃないか。

 終盤の詳述は避けるが、実は予想した以上の凝った終わり方だと思うのだ。別にヒネリがある、とかではないのだが、少しだけ書くと、唐突に、車体のない、運転席むき出しの自動車が登場してスラップスティックの王道のような画面が現出したり、特別仕様のホーンや、二つ(左右に)ハンドルのある自動車が出て来たりといった、こちらの想像をちょっと超える画面作りが連打されて終わるのだ。あるいは、ラストは佐久間の登場シーンの伏線回収というか、登場シーンを思い出させる構造にもなっており、このあたり含めて本作の満足度は高い。

(評価:★4)

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