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[コメント] サーミの血(2016/スウェーデン=デンマーク=ノルウェー)

当事者にしか語れない告白が途方もない高みを指し示している。「良心的」である他ないドキュメンタリーや教育映画に対する劇映画の優位を証明した作品でもあるだろう。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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何という懺悔録だろう。まるでユダの告白のようだ(キリスト教団も被差別者集団だった)。語らずにいられない、という作者の感情がそのまま伝わってくる。否応なく差別者に生まれついた我々は、彼女らの気高さに黙って胸打たれるしか術がない。「良心的」な「人類学者」の前でヨイクを歌う件の残酷を前に、もうどうしていいのか判らなくなる。常識を括弧で括らせる視点を本作は持っている。多くの人権啓発映画は観るものに善意と努力を求めるが、本作はこれを宙吊りにしてしまうのだ。抉り出されたものは深い。

サーミ人の生業をもっと見たかった、とか、エレ・マリァが学校に潜り込むのがお座なりだ、とか、端々に不満はあるが、どうでもいい細部である。映画紹介に「成長物語」とか「自由になるための夢と憧れ」などと紋切型が書かれているが、無論そんな話ではない。真逆であり、こういう紋切型を宙吊りにして、根本から考え直せと強いてくる映画だ。

この居たたまれなさから始める他ないのだろう。さもなければ共感というものがバラバラにされてしまうだろう。風景の怜悧な美しさは極上。

(評価:★5)

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