[コメント] ギミー・デンジャー(2016/米)
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しかし、この冒頭はとてもいい。ドラムの叩き方を知らないドラマー。最悪の客たち、その客を挑発するイギー。ホームレスで解散後は実家へ帰り、造園業やタクシー運転手になったと語るメンバー。しかし、このヤンチャで全編通す意図はなかった。ジャームッシュの編集はマニアックなフィルムの引用に溢れ、イギーの趣味によりアダムスファミリーほかテレビが多く面白い。イギーはファラオがお好みらしい。いつも上半身裸だから。お茶目な切り絵アニメを交え、ジョン・ウェインにすれ違った件が揶揄的に語られる。
ストゥージズは前衛音楽から始め、楽器作りまでしている。だからマントラの詠唱など録音できたのだった。影響を受けたのはMC5。前座もしている。ジョン・シンクレアはコミュニストで「文化に暴行を加えるのだ、麻薬とロックンロールと野外の性交で、西側の社会構造はボロボロになる」と格好いい発言。ブラックパンサー党もつくった。イギーは政治嫌いなのでニヒリストと呼ばれたと云っている。68年のシカゴの民主党大会に出て乱闘。ミシガンで一緒にエレクトラと契約。売れずに73年に解散。
ジョン・ケイル、ニコ、ボウイは存外否定的な扱いだった(イギーは彼に救われるのだけど)。余りにへんな格好していたからヒースロー空港から出して貰えなかったという逸話がいい。シリコンバレーに転身したギタリストもいる。脱退して早逝したデイブとロンが追悼されている。ダイナソーのJ・マスキスが纏めた再結成。ロックの殿堂入りで老年が纏められるのは、いわゆるロックっぽくない。もちろんクスリもやめただろう。
理性的なイギーは、すでにロックやパンクの通念はとうに卒業しているのだった。というか、最初から卒業していたのだと思わせられる。子供の頃からトレーラーハウス住まい。いじめっ子に揶揄われて、彼等との付き合いを止めた、両親を尊敬している(ドラムセットを家に持ち込んだら寝室を代わってくれた)と語るイギーが格好いい。本作はイギーが老年の境地から、そもそも俺は最初から最後まで理性的だったのだと回想する映画だったように思われた。
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