[コメント] シェイプ・オブ・ウォーター(2017/米)
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観ればわかることだが、冒頭での「すべてを壊そうとした怪獣」とはストリックランドのことであり、また彼に象徴される様々な偏見を持った人々ということになる。かつては『ウルトラシリーズ』で親しんできた、異形のものに対する不寛容への批判をこうしたダークで優しい物語として紡いでくれたことが嬉しい。その現代性にも。
声を失ったイライザはそのまま当時の社会的な女性の立場であるし、ジャイルズはおそらく性的指向で失職したと思われる(宴席で発覚したのだろう)。ゼルダは1962年当時のメリーランド州ボルチモアという土地で暮らしてきたアフリカ系女性、ホフステトラーはソ連のスパイでありおそらくユダヤ系。今作は9月から10月10日にかけての物語ということでまさにキューバ危機前夜である。ちなみに10月9日はギレルモの誕生日らしい。彼らはそれぞれ困難な状況にあり、失意や命の危機にさらされながらも決意したのが「救うこと」だったという構成がまず素晴らしい。
とりわけホフステトラーは難しい立場だったり、フェチは国境を越える的な振る舞いだったりで好きなキャラクターだなと思っていたが「そこでバラすんかい」となってしまうのは不満が残るところだ笑。そうでないとストリックランドは水門に辿り着けないから仕方ないのだけど。
そのストリックランドはトイレで不思議なこだわりを見せたりしつつもわかりやすい悪役だったが、実際のところはプレッシャーを抱えながら生きていた。そのはけ口として異なるものへの迫害がなされるという構図には考えさせられる。彼は饒舌だったが指を二本失い、その彼にイライザは手話でFワードをたたきつけるという皮肉。
あの「不思議な生き物」は意に沿わず連れてこられて迫害されるということからは奴隷としての歴史があるアフリカ系アメリカ人、そして南米から来たという意味では移民(中南米)を象徴しているのだろう。スーツアクター、ダグ・ジョーンズの演技も素晴らしかった。あのシーンでは「やめろー」と思ったけども。普通は猫が魚を食べるんだけどね。
個人的にはウディ・アレンの原体験として『カイロの紫のバラ』があるから、今作との共通点に気づかされたし、それもまた楽しい。
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