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[コメント] 汝の敵日本を知れ(1945/米)

ほぼ正確で穿った大日本帝国の素描。反転させればネトウヨの国家観とまるで同じであり、高市某か稲田某辺りの朗読で日本語版つくったら、そのままその筋の研修ビデオになるのではないだろうか。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







余りに面白いので長文書き起こし。

白人捕虜を斬殺せんと日本兵が刀を振りかぶる新聞記事の写真で始まり、「刀は鋼の聖書である」The sword is our steel Bible.(荒木貞夫陸軍大将)と字幕。真剣で藁を斬りまくる剣法の披露のフィルム。剣の道について説かれるのかなあと思ったらそうではなく、日本の色んな祭りの光景を中心に、でんでん太鼓の行列、ビル、電信交換台、地下鉄、農耕、タイプ、お相撲さんなどのフィルムが洪水のように流れる。「汝の敵日本を知らなければならない。日本人とはいかなる民族なのか。彼等は全くの異民族なのだ」。

典型的な日本兵の紹介。161センチ53キロ、装備品は27キロ。並外れた忍耐力。魚や肉も喰うが一般に米ばかり喰らう。日本では軍人になるのが一生の栄誉。子供の時から、神の子孫で世界を支配する民族だと教え込まれる。同胞以外(non-Japanese)への裏切り、強姦、残虐行為は正当化される。彼等にとっての至福は死。軍旗のもとに盲目的に突撃。軍旗は国旗だ、神の象徴だ(米国でもそうだと見えるが)。国旗の日輪は天皇の象徴だ。天皇は現人神で宗教と政治の統合。米国大統領と同じ力を持ち、太陽の直系子孫。写真を掲載できない(米国雑誌に掲載されたとき日本政府は正式な抗議をした)。全ては天皇から発し天皇に帰する。世界征服を命ずる。天皇の名のもと他民族に平和をもたらす(中国人への残虐行為(路上に転がる死体などにボカシが入る)を流してイロニーとしている)。

紀元2600年式典の映像(これは克明なものだ)をバックに天照大神から説き起こした解説。日本人は神の子だ、軍人から芸者まで皆一大家族国家の一員。日本人の行動規範は神道。

「神道によれば日本は神の子である天皇と900万の子神(とは何だろう)、7500万の人民、そして無数の亡霊から成り立っている。この霊が日本の隅々までを見守っている。戦場でも家でも、客はその霊に紹介される。彼等は柏手を打ち霊を呼ぶ。お供えが献上され線香が焚かれる。日本人は連綿と続く霊と一緒に生活をしている。息をして、形がある以外は霊も人も同じ存在だ。霊に見守られる日本人は神の子 天皇に従う。日本には八百万の神がいる。火山にも雷にも蚕にも嵐にも神がいる。真珠取りにも神が宿り毎年祭りが催される。農民は田の神を祀り豊作を祈る。案山子も神である(このかかしがユーモラス)。日本には10万以上の神社があり地方神や霊が祀られる。日本人は神と共に行動する。箸の使い方、花の活け方、茶の飲み方、お辞儀の仕方、部屋の入り方、挨拶の仕方まで。神道は趣がある古風な宗教に見える」。

「しかし今の神道には残虐性が潜んでいる(と天皇神道を区分する。そう云えば、京都の大江山には祠の隣に天皇神道の祠がある)。1870年以降日本は狂信的な教義で教育をし、何百万という無辜のアジア人、何千もの米国人を殺害した(再びボカシの入る映像。大量の遺体をトラックに野積みしている)。これは2600年前の神武の天命に基づいている。すなわち神国を広げて世界を一つの日本の屋根に統一する。その名は八紘一宇。これが日本人の制服欲を掻き立てる。「八紘一宇では日本の天皇は世界の全ての種にとっての天皇である。七つの海などない。全ては日本の大海と認識する(昭和17年京都大学コマキ博士、とは誰だろう)」。松岡洋右「神武天皇が帝国を建国した偉大な精神に基づき人類を救うためには、日本がアジア統治を引き継ぎそれを世界に広げていくべきである」。」

「日本人であれば戦死するとその魂は神となると信じている。彼等は軍神となり靖国神社へ祀られる。戦死者の名は紙に書かれ靖国神社に奉納される。死んで靖国神社に祀られるのは最高の名誉である。英霊の前には天皇でも頭を下げる。このため軍人の別れの言葉は「靖国で会おう」である。母や妻はこのため涙なしに位牌を受け取る。この位牌は「声なき凱旋」と呼ばれる。(墓地の線香立てには線香と並べて煙草が刺されている)。戦死すれば神となる故に彼等は降伏よりも死を選ぶ。降伏は本人をはじめ一族の恥と不名誉となる。これを日本人ならば暗黙のうちに(無意識に、ということか)信じている」

それでは日本とは何か。日出づる処の国。カリフォルニアより少し大きい。平均1日4回の地震というのは間違いなのか体感のない地震も含めるのか。大地震は25年に1回。家の倒れる映像はたぶん『新しき土』。HELP THE JAPANESE CHILDRENとアメリカの子供が募金しているフィルムが映るのは何だろう。東京の人口790万人、世界第三の都市。

原住民はアイヌ、モンゴル人が征服、その後も満州人とマレーシア人が入ってきた。こうした部族人種が混血したのが現代の日本人。純血ではなく混血である。という説明は明らかに間違い。当時こんな説があったのだろうか。

「侍は労働せず領地の農民から年貢を取り暮らした。刀は権力の象徴。農民を斬ることも自由だった。武士道という法典をつくった。主への忠誠と戦場での功労を大事とした。だが武士道は裏切りを認め、それを処世の術とした。待ち伏せや丸腰の人間を後ろから襲うことも許された。大勢で斬りかかる、これが裏切りの武士道である」。確かに欧州中世にはないのかも知れない。ハワイ奇襲が含意されているだろう。ハラキリの解説もある。「死を恐れぬ勇気を示す複雑な芸術的儀式」とある。

秀吉の世界征服。最初の目標は中国、朝鮮を襲い中国から援軍。撤退したが財宝とともに、中国朝鮮人の耳鼻3万個の塩漬けを持ち帰り耳塚に収められた。好戦的な日本の血。そしてキリスト教弾圧。長崎で137の教会が焼き払われたとある。フィルムは弾圧の劇映画が繋ぎ合わせている。何という映画なのだろう。日本は鎖国してずっと中世に生きていたという解説は単純。

「開国して強力な軍隊の組織化には侍だけでは数が足りず、その革命的新思想は小作農に武器を持つことを許可した。兵士になるのは侍になるのと同じ意味に思われた」。これは深い。私は何で江戸時代はほとんど農民だった人たちが昔から侍の物語を悦ぶのか判らなかったのだが、国民皆兵制でみんな武士になったと思えば合点が行くのである。「この普及のため宗教利用。天皇崇拝、軍隊賛美、征服心紅葉に古代神道が復活」

「我ら西洋文明では思想を変えた力は事実上全て大衆から生まれてきた。進化や革命は人々から始まる」「日本は大衆の要望ではなく(支配階級の)法令によって西洋化された。西洋化されても中世のように下を支配し上には従った」「今でも日本は道徳的善悪の基準はない。ただ目上の者に従うか従わないかの違いがあるだけだ」「父親は11〜12歳の娘を工場へ売ることもできる。年頃の娘を置屋や娼家に売ることもできる」「個人の幸福は問題ではなく苦痛こそ神聖のようだ。長時間迅速懸命に働ける理由である」「農夫は17世紀と同じ毎日を繰り返す」胸まで浸かる泥田での農婦の作業が一瞬出てくる。これは始めて観た。ほとんど乳の上までの泥田だ。水上勉は母上がこれをしたと書いていた。「生活水準は世界でも最低」は農村では本当だっただろうか。

「日本は生活水準向上ではなく他国占領のために工業化した」と軍需工場の様子。「週6日、48時間働いても高給は取っていない。週72時間最低賃金で働き大抵40歳で結核で死ぬ」断定するのが英語らしい。「なぜ労働組合をつくらないのか。聖なる戦いを遂行している信念を持っているからだ」イギリスの組合は第一次大戦の約束が破られたため、第二次大戦中は軍需の協力を拒んだと最近読んだ本に書いてあった。「軍部は安い労働力と大きな利益を六大財閥に与え、代償に六大財閥は軍用金を軍に提供した」政府の民活はいまも同じようなものだ。

「大衆の動きを把握するために警察、憲兵、日本のゲシュタポがおり、そして何十億の先祖の霊がいて、生きている者を見張っている。霊を信じない者には効率的な日本独自の方法がある。思想警察だ。本当に思想警察がある(確かに驚くべきことだ)。危険な思考を持つ人物を逮捕するのが仕事だ。誰が危険思想を持っているか決めるのか。それは簡単だ。思想警察が決めるのだ」これはウケる。モンティ・パイソンのコメディみたいな現実だった。思想警察員として笠智衆が登場している。「年間一万人が危険思想者として投獄される(恐ろしい実話である)。ブラックドラゴンソサエティ(黒龍会ですな)が作られた。4000人の狂信者たち。その長は残忍。日本暗殺結社「玄洋社」の遠山満は影の天皇と呼ばれた。1944年彼は40歳で死亡。彼は戦争指導者に歯向かう者に死の恐怖を与えた」さすがアメリカ、まだ戦中なのにすごい情報収集力である。顎髭に眼鏡の老人のフィルムが記録されている。浜口首相以降の日本暗殺秘録。

教育機構はよくて識字率は97%だが政府が認めた事柄や思想のみが教えられ、同じ考え方をする子供の大量生産。授業風景の先生曰く「我々の命は天皇と国家に献上して初めて誠実で真実なものとなる。我々民族は宇宙に地球を同化させるという偉大な理想と使命を持っている」「徳とは目上への恭順。野心は世界を日本のもとに征服する八紘一宇だ」。八紘一宇のローマ字はつねに起き上がり。日清戦争以来の戦争の歴史が語られるなかで、田中義一男爵(首相)による八紘一宇原案を奏上、これが「田中メモ」は日本のマインカンプと云われる。この歴史は日本ではマイナーなものだ。そこでは満州は鉄、石炭。中国は人的資源。シベリアは材木、石炭、小麦、金属。マレーシアとインドネシアの錫、石油、ゴム。最終目標は米国でオレンジ、綿花と軍需産業。これが世界制覇の設計図。また、平田晋策「米国は日本に挑戦するか」、カワシマ・セイチロウ「米国政策への反論」は公式読本となったとある。

「日本は征服しようとする国に諜報員を派遣、彼等は労働者、花屋、庭師に化けた、話さない奇妙な美容師が床屋で働いた、海軍将校は漁師に化けて無線設備の小舟を操った」、カリフォルニアでのマグロ漁まで出てくる。これらはホンマかいなと疑わせるものだが本当なんだろうか。日本人だけ知らない日本の歴史かも知れない。ここにまで引用の映像があるのが偽物臭いが何なのだろう。ハリウッド映画かも知れない。

「そして軍需産業の活発化。兵器製造に融資する一方、資本家は本格的生産体制に入る。八幡製鉄、長崎造船所は軍需景気、しかし機械生産の64%は従業員5人以下の町工場で、家族で生産(ここで機織り機や傘貼りのフィルムが出るのは失策だろう)。安い労働力を生かして模造品を海外で売った、ラベルで騙し、ドイツでビールが、アメリカの製品もてアジアで売られ、アメリカで米国旗が売られた」とある。これは著作権のいい加減な新興国の定番なのだろう。「売った金で石油、くず鉄、錫、ゴムやアルミを輸入、兵器製造力を蓄えていった」

「だが日本最大の武器は軍国主義の産物、兵士である。人道主義という不純物は子供の心から取り除かれ、厳しく教育されて侍になる」。子供たちの軍事演習が延々記録されている。ここは正に現代の北朝鮮兵士が想起される。二重写しでアメリカ国旗を踏みつけて行進する刺戟的なシーンがある。コレヒドールの死の行進の有名なフィルムが流され、捕虜が日本人兵士のように痩せたフィルムもある。マニラのフィリピン人の虐殺はボカシが入り、ベートーベンの七番が流れる。日本軍の万歳連呼の映像。「400万人のタフで狂信的な軍隊はまだ実質的に無傷である。塹壕のなか喜んで玉砕する百万の新兵を送り出せる日本。世界征服か全員玉砕かに賭ける国」「日本は百年戦争を戦ってでも米国を滅ぼそうと固く決意している」という大平秀雄という大佐の言が引用される。

「この国は狂犬を殺す如く打ち倒す必要がある」「マッカーサー将軍がフィリピンを救い、南方の補給路を断った」「米海兵隊は硫黄島で2万の日本兵を戦死させた」「沖縄戦では10万以上の精鋭日本軍を降伏させた」「日本近海から空軍が組織的に爆撃している」と「快進撃」が記録される。なんだもう戦争終わりじゃん、こんな分析映画つくるの遅くないか。「我々は日本の陸海軍とその軍需工場を壊滅させるのだ」とスティムソン陸軍長官が語って作品は終わる。陸海軍と軍需工場以外にもさんざ爆撃した咎はいつの日か裁かれるだろう。

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