[コメント] 華氏119(2018/米)
映画を見終った人むけのレビューです。
これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。
内容的には大変興味深い。2016年の大統領選挙では初の女性大統領の誕生をお祝いしていたところ、どんでん返しが起こってしまったことから始まり、ほとんど思いつきで過激な主張をするポピュリストが大統領になれてしまった理由。そして現在のアメリカ全土の政権支持基盤、さらには前のオバマ政権時代からの政治のゆがみも含めて克明に語る。
面白いのはこの話が単なるトランプ憎しだけでなく、怒りは民主党にも向けられているし、反理性的になってしまったアメリカという国そのものに対しての怒りというものも語っている点。
一方、ミシガン州トロントで行われた水道鉛害は、今の日本においても重要な意味を持つ。なんせ2018年現在、日本でも水道民営化が法制化が進んでいる。トロントで起こっている事は日本の未来なのかもしれないのだ。
その意味ではとても興味深い話だった。
ただ、これを観ていて、これまでにはなかった居心地の悪さを感じてしまったのも事実。ムーア監督のドキュメンタリーは確かにこれまでも居心地の悪さがあったが、それとは別種のものだ。
かつての『華氏911』はブッシュ大統領の過去と、共和党におけるその位置づけ、そして連続爆破テロ事件の影響、すべてブッシュ憎しという監督の意思によって作られた。 その極端な主張こそが監督らしさであり、面白さとなっていた。
てっきりこの作品もその面白さが出ているのではないかと思って行ったのだが、ちょっと予想とは違うと言うか、わたしが求めていたものとは異なっていた。
わたしが求めていたのは、歪んではいてもサービス精神に溢れたユーモアだった。ところが本作にはユーモアはほとんどなかった。ただここで見られるのは監督の怒りばかり。
話はいろいろ拡大してまとまりはないのだが、根底にユーモアなく怒りだけで作られたことで、本作は観ていてかなり痛々しいというか、精神に痛みを覚える作品になってしまった。
監督の攻撃性はますます増し、大統領となったトランプだけでなく、共和党そのものにも、そしてアメリカという国そのものに向けても放たれる。
これまでの作品にあった、絶望の中でも「私たちにできること」の主張も後退し、ただ現状を語って、文句を言うだけになったような感じになった。
げんなりと言うより、胸焼けがするような気分になってしまったので、点数はそんなに上げられない。
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