[コメント] 運び屋(2018/米)
映画を見終った人むけのレビューです。
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警察車両が道を封鎖している。そこへ向かって車は一直線に走る。それを見て一瞬ハッとした。これは『バニシング・ポイント』なのか?と。あの映画みたいな玉砕で終わるのかと。もちろんそんなはずはなく、イーストウッドはちゃんと止まる。思えばその長いキャリアにおいて、彼は独りよがりな自爆によって結末をつけたことがついに一度もない。
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麻薬王に遊びにこないかと招待される。いやちょっと…と普通ならためらうところを「いいよ」と軽く請け合う。素直である。長年確執のあった妻の死に際にようやく駆けつけたら、なぜか待っていてくれて許してくれる。よい妻である。そんなわけあるか、とはだれも言わない。だってホラ話なのだから。ホラ話を本物に見せてこそ映画なのだから。そして愛嬌のある奴にはそれができるのだから。これだけ長い間ホラを吹き続ければ、これはもう意志である。モラルである。
孫娘の結婚披露宴はずいぶん質素だ。衰退の兆しはそこここにうかがえる。彼の依拠する白人男性文化自体、もはや米国の主流ではなくなりつつある。だからといって、いったん始めたホラ話は降りられない。ホラを吹かなければ、待ってくれるものも待ってくれない。救済を信じなければ生きてはいかれない。途中でマジに返ったら台無しである。何くわぬ顔で、余裕綽々で、とぼけ倒すのだ。(いつもの、まぶしそうな、ちょっとテレたような感じに眉をひそめながら)このキャンディーの缶、みんなで食べてくれんかね。わたしは警察のファンでね…。
ついに悪運尽きてムショ入りすることになった。…と思ったら、ムショの中では三食昼寝付きで園芸三昧。これでは刑罰になっていない。アホな話である。 だいたいこの男、プロの園芸家だということになっているのだが、それらしい描写はぜんぜん出てこない。花の下のところへはさみを入れてチョキンとやるだけ。そんな園芸家がいるかと思うが、ご愛嬌である。
いや、実は今回だって紙一重ではあった。あと一歩で撃ち殺されていた場面は再三だったのだ。もし撃たれていたら、彼はマジに返ったのだろうか? いや、ものも言わずに、バタッと倒れてそれきりだっただろう。ホラ話にオチ(現実との妥協)はいらない。
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そしてしばらくしてからもそもそと起き上がり、「防弾チョッキだよ」などと言ったに違いない。
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