コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] 奇傑パンチョ(1934/米)

すごいモブシーンの連続する映画。特に、戦闘場面がほゞ割愛される前半は、それを補うかのように、画面の隅々にまで人がうごめいているショットが多く、目を瞠る。ほとんど『ピラミッド』レベル、とまで云えば、云いすぎか。
ゑぎ

 これらの屋外シーンの演出は、全部ホークスだと思いながら見た。見終わって調べると、IMDbには、ホークスは10週間撮影に参加していたとある。

 新たな領主に父親が土地を取り上げられ、鞭打ちの刑に合い、殺される、その夜、少年のパンチョは、仇をとり、逃亡する、というのがプロローグ。まずは、この簡潔な繋ぎがいい。すぐに時間が飛んで、大人になったパンチョ−ウォーレス・ビアリーの登場は、なんとも太々しい、でも憎めない顔。こういうあたりの呼吸もホークスらしいと感じる。

 序盤で描かれる、パンチョと2人の側近、画家(?)のチャヴィト−ジョージ・E・ストーンと、副官シエラ−レオ・カリーロの印象的な場面が最終盤まで何度も反復される構成は、ベン・ヘクトの貢献部分なのだろう。すなわち、前者(画家)の「牡牛と鳩」、後者(副官)の手鏡の扱いだ(ラスト近くでは大きな鏡)。特に、画家が牡牛を描けないという理由が明確にされないナンセンスさがいいし、副官シエラの人をくった態度も面白い(鏡の扱いとは関係ないが、パンチョが銀行に預金をおろしに行ったシーンなど)。

 また、パンチョの友人という位置づけになる米人記者のジョニー−スチュアート・アーウィンと、革命指導者マデロ−ヘンリー・B・ウォルソールも良い役だ。記者ジョニーはエンディングまで居続けて映画を締める役割だし、マデロ役のウォルソールは、さすがにサイレント期の大スターだと感じさせられる。尚、ホークスからコンウェイに代わるのと同時にジョニー役もスチュアート・アーウィンに交代したとのことで、記者ジョニーが登場するシーンはホークスの演出では無い、ということが云えるようだ(撮り直しされた部分もあるのだろう)。

 ちょっと残念な部分としては、女優の扱いがあるだろう。もっとも、女性の扱い全般に今見ると複雑な心持ちにさせられるところも多い映画だが、私が云いたいのは、テレサ役のフェイ・レイが、こんな役とは思わなかったということだ。それは、登場シーンが実に鮮烈なのに、という感覚との落差でもある。本作中で一番目立つ女優は彼女だが、ヒロインではないし、ならば、パンチョが(劇中)最初に結婚するロジータ−キャサリン・デミルに、もう少し良い場面が与えられていてもよかったのではないか。

 あと、後半、パンチョがエルパソから戻った後の戦闘場面は、前半のように割愛せずにきちんと見せて、いわゆる(一般的な言葉遣いでの)スペクタクルなシーンになっているし、後半の敵役、パスカル将軍−ジョゼフ・シルドクラウトのキャラ造型(やゝ類型的だが狡猾そうな相貌)もいいと思う。さらに、ラストシーンは、上にも書いたように記者のジョニーもいる、ということでコンウェイの演出部分だと思われるが、2階の窓をからめた高低感のある(俯瞰仰角の)画面造型が秀逸だと感じた。

(評価:★3)

投票

このコメントを気に入った人達 (1 人)けにろん[*]

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。