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[コメント] 世界の涯ての鼓動(2017/英)

なんとも雇われ仕事っぽいが(っていうのはテキトーな憶測だが)、それでもヴィム・ヴェンダースだ。面白い映画を作る。まずは、ジェームズ・マカヴォイアリシア・ヴィキャンデルが出会う、ノルマンディーの情景が実に美しく撮られている。
ゑぎ

 それに、最初のランチのシーン。ヴィキャンデルが海の層(レイヤー)を語る場面が、二人のアップ、正面カメラ目線の切り返しだ。やっぱり小津なのね、と思っていると、カメラは緩やかに移動しているので、徐々に普通の(イマジナリーラインがはっきりした)切り返しになる、なんて面白いこともやるのだ。正面カメラ目線で云えば、二人が木立で会話するシーンの切り返しでも、印象的に使われる。

 マカヴォイは英国諜報部員。ヴィキャンデルは生物数学者で深海の熱水噴出孔を研究対象としている。マカヴォイは任務でソマリアに潜伏する。ヴィキャンデルはグリーンランド沖の深海を潜水艇で探査する。いずれも、世の中的に注目度の高い、トレンドを追った舞台だと思うのだが、二つの異なる世界のクロスカッティングは、正直なところ、どっちつかずで、できれば、それぞれを(私としては、ヴィキャンデルの方、生命の起源の探求を)じっくりと見たいと思わせる。つまり、全体としては、いびつな構造だとは思う。なので、傑作とか佳作という評価にはならないだろう。

 トレンドを欲張って取り入れている、むりくり繋げているように見える、という部分で、他人の企画を任せられた、雇われ仕事っぽいと思えるのだ。任せられる、雇われる、ということ自体は立派なことだと思うけれど、ヴェンダースがやりたかった企画だろうか、と思ってしまう。

 しかし、私がストーリに重きを置かない見方をするからではあるが、全体構造なんて、どうでもよいと思うほど細部は見応えがある。後半で最も良いと思ったのは、ソマリアのパートで登場するレダ・カテブで、今や主役級の彼をこんな脇役に使ってしまうこと自体、驚いたが、カテブが、家族でテレビを見ている民間人の家屋の中に手榴弾を投げ入れる場面にはゾクゾクした。これぞ活劇の悪役造型だ。あるいは、米軍ヘリからの爆撃の直前、砂浜にライフルを置き、ひざまずいて祈る演出。このあたりの簡潔さもいい。やはり、ヴェンダースは「映画」監督だ。

(評価:★4)

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