[コメント] フォードvsフェラーリ(2019/米)
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一瞬の気の緩みが大事故を引き起こすカーレースにあって、耐久を加えたことで過酷な24時間耐久レースとなったル・マン。世界最高峰と言われるこのレースはこれまでに3回映画化されている。一本目は実際にレーサーでもあるスティーヴ・マックィーン主演の栄光のル・マン(1971)であり、二本目はフランスで製作されたアニメーション『ミシェル・バイヨン』。意外に少ないが、耐久レースは実際のレースを見ること自体がドラマだからなのかもしれない。
それをレースだけでなく、レースの企画から始まっての壮大なドラマに仕立てたのが本作で、かなり満足度の高いものになっていた。
レースとフレネミー(Friend,Enemyの合成語)の関係、企業の内幕話から家族愛まで、詰め込むだけ詰め込んでおいて、ほどよいバランスで仕上げたマンゴールド監督の手腕は賞賛されるべきだろう。
それに何より、本作の面白いところは、二人の主人公が大企業側に付いているという点。
いわゆる“燃える”作品というのは、金で頬をひっぱたくような大企業に対して弱小ながら天才のいるチームが勝利するというパターンである。本来だったらこのパターンだとフェラーリの方を主役側に、フォード側をライバル側におくのが普通だが本作はその逆。主人公達は通常叩かれる側である大企業側に立って行われる。
これは実話を元にしているためにそうせざるを得ないのだが、だからこそ企業内の軋轢とか開発の遅れとかをドラマ化できた。王道ではない作品だからこそ、そういう搦め手が使えたのだし、視点が変わったから面白い作品ができたとも言える。
シェルビーもマイルズも、それぞれの分野の腕は一流だが、決して企業向きの性格をしていない。理想を定めたら金や人間関係なんか無視して自分のやりたいことに向かって突っ走るタイプだ。そんな二人が大企業のお抱えとなった時、当然企業とはぶつかり合いが生じる。この部分を強調することで本作はちゃんとチャレンジャブルな話に仕上がっている。
金だけは出すものの、会社の方針に迎合しない二人に冷ややかな企業と共に戦っていかねばならない。しかもお互いに腕を認め合いつつ、友だちにはなれない主人公二人の軋轢もある。企業内での一匹狼というだけなら主人公を一人にしても良かっただろうけど、二人いることで相乗効果を生んでいる。この辺りの設定が絶妙である。
それを受けるデイモンとベイルの立ち位置も良い。レースに全力集中したいマイルズはそれ以外のことを雑事として全く見ようとしないキャラだが、ベイルがしっかり役を演じていた。そもそもベイルは元々狂気をはらんだ役が似合ってるので、こう言う役にはぴったり。しかも姿形まで実際のマイルズに合わせていたことがラストシーンのスチール写真からうかがえる。役者魂ここにありって感じだ。一方、商売人としての側面も持つシェルビーは上手く立ち回ることもできるのだが、肝心なところで熱くなりすぎてしまう。二人とも性格は違うが、この「熱くなりすぎる」ところが似ていて、それで共感したり反発したりする。そんなバディを描いたことが本作の成功と言えるだろう。
後はやっぱり演出だろう。レーサー視点で展開するレース風景が凄い臨場感あり。スピードが速くなればなるほど視野は狭くなり、危険度が増すが、それを映像でやると、どれだけレーサーが危険なことをやってるのかが見てるだけで分かる。これを大画面で観てると、かなり興奮する。
ビデオで観るのは勿体ない。できれば大画面と良い音響の設備の中で観てほしい作品である。
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