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[コメント] 東京上空三十秒(1944/米)

トランボは空襲にかかる倫理的課題を丁寧に吟味しており、これは被害者の我々にも納得できるものなのだ。このような正論の積み重ねの先で争いは終わるものだと思う。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







ひとつはヴァン・ジョンソンロバート・ミッチャムとの甲板での対話。「うちにいた日本人の庭師はいい人だった。日本人は嫌いじゃない」「誰も憎んでいない。好きでも嫌いでもない」「爆弾を落とすか落とされるかの問題だ」

もうひとつは上司の指示。「目標は軍事工場だが一般市民もいる。一般市民を殺すことについて自責があるなら行くな。代わりはいくらでもいる」。軍事工場を標的にすると明確にされているのであり、この44年製作の本作は、サイパン陥落以降の無差別攻撃を知らずに撮られている。無差別空襲や原爆を知って撮られた『パール・ハーバー』のような戦後映画とは別物と解すべきだろうと思う。ヴァン・ジョンソンはこの手の国策映画で有名らしいが、本作は航空技師志望で軍人志望ではない。

ただし、日本軍は怪しい連中という認識は端々で顔の覗かせる。「日本では不時着はしないことだ」とミッチャムの質問に答える元大使館職員は、言外に日本軍の国際法無視を知っていると漂わせている。日本人医師は夜には仕事しないと揶揄されるし、日本の艦艇は中国の民間船を略奪している。無論、大日本帝国とはこんなものである。低空での突撃は愉しいショットだが、爆撃されているのは日本なのだからとても倒錯した感想だ。富士山が侘しい。

後半は米中の協力が歌われ(蒋介石の中国であるが)、中国人のお婆さんは涙を流し、子供たちがアメリカ国家を歌う。脚切断で樹が切り倒される夢のショットは前後関係なくとても印象的で本作の個人的ベストショット。優しい奧さんは定番だがフィリス・サクスターはとてもいい。彼女に向かって倒れるヴァン・ジョンソンは判っていても痛々しい。「なんで君はそんなに綺麗なんだ」「貴方を捉まえるためよ」と三度繰り返されるジョークがいかにもいい。

「線路は続くよどこまでも」がテキサスの歌として紹介される。飛行機急発進の練習の件は穿っていて面白い。別に東京上空に三十秒しかいなかった訳でもなく、タイトルは意味不明。

(評価:★4)

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