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[コメント] 星屑の町(2019/日)

この世知辛い上映環境に歌謡映画という幸せ。押しの強いのんの造形は日活期の吉永小百合を彷彿とさせ、「新宿の女」の弾き語りが素晴らし過ぎる。レコードほしい(含『極私的エロス・恋歌1974』のネタバレ)。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







本作の美点は何といっても歌謡映画の質の高さ。島倉の「ほんきかしら」なんてマイナーなカバーがいいし、のんが温泉ステージから初めてテレビに出るエコノミーなダイジェストもいい。戸田恵子の「手紙」もよくて、途中カットしたのが惜しい。

映画はのんを大柄に撮っている。女優を小柄に撮影することに映画はとても長けているのだが、本作はそれをしない。おっさん連中は白雪姫の七人の小人みたいなもので、肩幅広いのんに圧し潰されそうだ。これは当然意図的だろう。小さな女の子の冒険という処からズレていて、ここに面白味があった。

途中に柄本明の虐殺のホラーが挿入されるのだが、コメディ映画なら一貫性を保つためにここもコミカルに撮りそうなものだが本作は逆にしてある。このホラーから逆算するように、コメディも妙にホラータッチなのだ。こういう意外性がいい演出になっていた。リーダーと認知してもらえない小宮孝泰が笑える。

終盤はごちゃごちゃした。水族館で小日向星一にたぶん告白して、一家で農業のシーンにいるかと思われたのんはおらず、ダンスユニットと踊っている。このラストは『極私的エロス』の最後で眉毛抜いて前衛舞踏を踊っている武田美由紀の強烈な思い出がWる処で、引用的と見たのだがどうなのだろう。戻ってくる大平サブローに居場所を空ける配慮なんだろうけど。のんの父親捜しもどこかへ行ってしまった。まあ、やりたいことを続けていて慶賀という収束なんだろう。

小宮と菅原大吉の兄弟の喧嘩が心に染みた。弟に農業任せて出て行って、兄貴は酷いよと詰る弟は、じゃあお前、何か特別にしたいことがあったのか、なかっただろうと横から諭される。兄貴は悪かったと頭を下げる。やりたいことなど殆どの人にはないのかも知れない、という気づきがある。農業の方が幸せだったのだと。弟に美人ママとの結婚を用意するホンは優しいものだった。

(評価:★5)

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