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[コメント] 暗数殺人(2019/韓国)

非常に良質な刑事ドラマで、『砂の器』の丹波哲郎を思い起こした。
シーチキン

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







ミステリーの要素もあるが、それ以上に被害者に思いを寄せ、執念で地道な捜査を続け、丹念に事実を積み重ねていく、ある意味、理想の刑事の姿を描いたドラマだと思う。

そしてその刑事の姿に応えたキム・ユンソクは好演している。派手なシーンはないが、淡々と捜査を続ける姿には覚悟を感じさせた。彼にはどちらかというと、粗暴、凶暴という悪役イメージが私には強かったので、見違えるほどの演技に敬服した。

ところで本作は実話をベースにしているそうだが、本作にリアルさを与えているのはそれ故、だけではないと思う。本作は物証よりも自白偏重の刑事事件捜査と裁判の危うさをも的確に描いているからではないだろうか。

物証よりも自白の供述調書=裁判の証拠になるもの、さえあれば被疑者を有罪に持ち込めるから、事実を積み重ねる丹念な捜査よりも被疑者をどやし上げて調書をとる。その捜査スタイルが、裁判制度を熟知した頭の切れる「犯人」に逆用されたらどうなるか。

本作の「犯人」はこの点で実に注意深く、巧みに行動して見せた。要は裁判での証拠になるようなものさえ与えなければどうにでもなるし、捜査をミスリードさせ、それを裁判で逆手にとることも可能である、という事を示したのではないだろうか。

韓国の警察捜査、刑事裁判の事情はよくは知らないが、本作からはそういう背景が見てとれる。だからキム・ヨンソクのように、ひたすら事実を調べ集め積み重ねていく捜査が光って見える。

そしてこのことは他方で現実には、被疑者に「自白」を強要さえすればなんとかなる、という警察捜査の弱点の温床にもなっているように思える。そしてそれは、韓国だけの話ではなく、日本でもそうではないかと思えるところが怖い。

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)irodori[*]

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