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[コメント] 広い天(1959/日)

「日本は新しくならなきゃダメだ」の獅子文六、童話のような理想。素晴らしいのは主人公の少年がしばしばどこにいるのか判らなくなる描写群。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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広島疎開の最中汽車が止まり、みんなワラワラと下車し始める。降りて初めて行く先で空襲だと、ただ焼ける空の描写で判るのが鮮やかだ。みんな荒地に腰を下ろして茫然としている。そりゃそうだろう。そして少年は疎開先の住所を書いた紙を失う。得体の知れない伊藤雄之助を頼って四国の村へ行き、よく判らないままに住み着く。

「日本は新しくならなきゃダメだ」と伊藤は繰り返し、これは「優しくない」兄貴の松本克平に向けられているかのようだ。スネ夫みたいな彼の息子の山崎猛がいい。「行方不明の親は捕虜だ」と主人公をイジメる。捕虜とは子供世界でも裏切り者だったのだ。伊藤も彼等兄貴夫婦に蔑まれているという処に主人公の共感が生まれる「僕の好きな先生」の世界。主人公のですます調が田舎に都会を持ち込む。ベストショットは峠での伊藤との別れ。

闇船に飛び乗る件は次の冒険があっただろう、中途半端で残念。収束、彫刻には力があるが、伊藤はスーパーマンでしたという収束は軽くなってしまった。大衆小説はこれでいいのかも知れないが。「地面で人間は争いを繰り返すが、子供には広い天がある」。童話のようなアッケラカンとした理想。こんな理想は戦後が若かった時代に相応しかったに違いない。我々は何と年を喰ったことか。

(評価:★4)

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