[コメント] 追憶の女(1942/米)
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デイヴィスと叔父のチャールズ・コバーンの関係が面白い。自己中な娘は、実業家の叔父とだけ気が合う。彼は政治的な実力者で、金持ちで小遣いを山ほどくれるから。中盤、姉の許嫁を奪って逃げて相手を自殺に追い込む、という無茶して実家に戻ったデイヴィスは、コバーンとカウチで戯れる。「お前は本当に悪い女だ」とコバーンは笑い、デイヴィスはキャッキャと悦び、遺産の話を始める。コバーンはデイヴィスの父から仕事を奪った顚末、戦争中に儲けた話を語る。さすが叔父様と姪はまた悦ぶ。
この悪人天国、自己中たちの地獄絵図のようで、山本薩夫など大いに学んだのだろう。「酒呑ませて殺すつもりだろう」「金の成る木は捨てないわ」なんて会話もあったが、余命半年を宣告されたコバーンに最後、デイヴィスは死んじまえと怒鳴るのだった。
デ・ハヴィランドの姉との関係は善悪明快に過ぎただろうが、片方が悪いと片方が悪くなりようがないというのは判る気がするし、人権弁護士ジョージ・ブレントと一緒になるのも順当と思われる。デイヴィスとの関係は『ふるえて眠れ』では逆転する。
アーネスト・アンダーソンは「黒人は出世できないから弁護士になるのだ」とブレントに仕え、彼がデイヴィスにハメられて逮捕されると母のハティ・マクダニエルは「警察は黒人の話なんて聞きません」と諦める。BLMに直結するような告発で、『風と共に去りぬ』で黒人奴隷を代表したマクダニエルの口から、この真っ当な告発が聞けるのだった。 ヒューストンらしさは、少し陰翳のついた仰角バストにときおり見られるぐらいか。デイヴィスにたぶらかされたデニス・モーガンの失意の自殺など嬉々として撮りそうなものだが電話対応で終わった。全てはデイヴィスが持って行くのであり、エグいのは彼女だけでいい、という判断だろうか。
ラストの涙目の暴走ドライブが魅せる。半分自殺のようなアクセルの踏みこみ。彼女の心は不条理で満たされ、そこに後悔という回路はなかったのだろう。そうして最後にバストショットの天地が転覆するのだった。
原作もので、原作者はピュリッツアー賞受賞作家。「南北戦争前から現代までの南部の社会的変化、風俗をリアリスチックな目でとらえ、地方主義文学者のなかでは最も偉大なリアリズム作家の一人」とある(コトバンク)。黒人への視点もその一環なのだろう。邦題は何なのだろう。
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