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[コメント] そして僕は恋をする(1996/仏)

モラトリアムの憂鬱が淡々と痛ましいSO-SOフランス映画
junojuna

 じわじわと侵食する精神の蝕みが、あまりにも平易に語られるので、劇的な映画を見慣れている側にとっては、この180分近い本編は相当な集中力を擁することと思われる。しかし、本作は、ジャン・ユスターシュの『ママと娼婦』と同様、主題は「時間」であり、境界域にまたがる振り子の存在的不安を描いて、必要不可欠な映画尺であることを、あらためて感得するものである。登場人物がみな一様に似た顔つきのせいで、一見してキャラクターを理解するのにも集中要だが、この映画尺があってこそ、ポールのニヤケた表情、エステルのあき竹城のようなダイナミックな顔つきが、それこそじわじわと趣豊かに、意味を成さしめるデプレシャンのねらいであったのかもしれない。「ライヴァルの飼っている猿の死骸を片付ける羽目になることで精神に支障をきたす」とは秀逸なプロットである。静かな映画の中にほとばしる秘めたる激情を、ひじょうに繊細に描き出す手腕は見事であった。こうした世界観にもう少しばかりの、映画的様式に目くばせするデプレシャン印を見ることができれば、より好きになれた一作である。

(評価:★3)

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