[コメント] いとみち(2020/日)
最後に彼女が目する「世界」が感動的に美しい。それは何でもないありふれた「世界」だが、ことのほか広い。だが、いつでも彼女の手のなかにありつづける「世界」なのだ。
『ウルトラミラクルラブストーリー』(2009)で“その筋の映画好き(ってあえて書きますが)”に衝撃を与えた横浜聡子監督ですが、以降はその「異才」をいささか持て余していた感がありました。私は『りんごのうかの少女』(2013)の感想で「語り尽くせなかったに違いない(中略)「思い」の解放を次回作に期待する」と、『俳優 亀岡拓次』(2015)では「横浜聡子の才能は、この程度の「商業映画」ではまだまだ不完全燃焼なのだ」と書きました。
で、5年ぶりの待望の新作で持て余していた「異才」が、やっと商業映画の規格に(良い意味で)納まりました。その最大の功労者はベテラン撮影監督柳島克己(キタノブルーの生みの親)だと思います。光りをしっかり採り込んだ映像が印象的。主人公の素朴な凛々しさとマッチした澄んだローカルな空気感が心地よく作品の主題を上手く反映していました。この感覚は今までの横浜作品にはなかったものです。
柳島カメラマンは、豊富な「経験」の中から、横浜監督の「才」を活かす術(すべ)を選び出し、商業映画の規格にピタリとはめ込んだのでしょう。ちなみに「ウルトラ〜」の撮影は中堅(大阪芸大一派)の近藤龍人。その他の作品は比較的若手の撮影監督さんでした。
役者では西川洋子のお祖母ちゃんの達観した、そして店長役の中島歩の飄々とした“優しさ”が素敵でした。
余談です。オーナー(古坂大魔王)の「絆って知ってるか」という問いに、咄嗟に「はい。NHKによく出てくるやつ」と答えるいと(駒井蓮)。我が意を得たりで大笑い(コロナで声は出せないが)しました。私にとってのNHKは煎じ詰めれば、すべての国民を黙らせる必殺ワード「ふる里、家族、絆」で無難にコトを納めて、にこやかに「出演者がカメラに向かって手を振って終る」に尽きます。
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