[コメント] 恋に踊る(1940/米)
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タイガー・リリー・ホワイトなる芸名を持つルシル・ボールのダンスシーンが素晴らしい。仰角に構えたキャメラの前で堂々たるダンス。熱狂する客席との往還が実によく描けている。舞台袖から風が吹いてドレスが飛んで行くギャグが面白く、これが二度目になると哀愁が漂うのが上手い。
ルシル・ボールは奔放な造形だが、成功してボロアパートに戻って大家にモーリーン・オハラの家賃滞納を小耳にはさんで「内緒よ」とすぐ払う優しさがとてもいい。一緒にドサ周りした仲だった。このワンシーンだけで彼女は客のハートを掴んでおり、あとはいくら無茶しても構わないのだった。
彼女にオハラは金になると誘われ、彼女の前座(というか幕間芸)にキャバレーでバレエを踊る。当人は真面目だがコンセプトはツンデレ芸。客は最初「リリーを出せ」と暴れるが、興行筋が「ブロードウェイで最高のギャグだ」とプッシュし、すると客にもウケる。こういうのは今でも一緒ですな。
オハラはルイス・ヘイワードから「度胸を見せろ」と活を入れられる。これは正にShow must go onの精神。ピットの老いた楽団員だけがオハラに同情を示すショットがとてもいい。ついに客を蹴とばすオハラを興行主は「大ウケ」とまた大喜び。緞帳の裾からきまって三人で首を出すお道化が実にすごい。そして続いて裁判所、ここでも客席がバカ笑いを続けているのが素晴らしい。アメリア映画でよく見る公開の即決裁判。主人公ふたりの次に呼ばれるのはA.リンカーンというギャグもあった。
両者のバレエは序盤に興行主の前で比較される。司葉子そっくりのオハラが華奢な体で流暢に踊ると返ってくる批評は「幼稚園じゃないんだ」。ルシル・ボールは妖艶に踊り、「週25ドルだ」。本作は女のダンスを女の側から批評的に描いたというフェミニズム的な視点で再評価があるらしい。
ただ、この商業的なバカ世界からのアジールとして、映画は前衛バレエを描いている。この救いは本当かな、これでいいのかな、とも思う。ニューヨークの一角にあんな広い練習場をタダで構えられるはずもなく、それは有力なパトロンが支えていたからだろう。パトロンの芸術と商業主義のお笑い芸との比較は難しい。
私的ベストショットはオハラが前衛バレエを覗いて自信失くしてラルフ・ベラミーを主催者とも知らず振り切って雨中を逃げかえる件で、この雨の降り方、オハラに纏わりつくような厭な雨が抜群に描けていた。オハラは短気だからアイルランド出身といい当てられる件が二回ある。ロイ・デル・ルースはノンクレジット。
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