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[コメント] 深夜の告白(1949/日)

中川信夫版。企業人の戦争責任を問うシリアスな物語のなか、作劇のバランス上登場するのか躁状態の月丘千秋がものすごく、狂った時代をさらに狂ったものにしている。石段スキップは素敵な名シーン。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
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飛行機会社の社長小沢栄太郎は戦時中、軍事用機の生産に勤しむが、航空兵となった息子がその機に乗って戦死。彼はこれを深く悔いて失踪し場末で死んでゆく。なぜ失踪したのかの告白を映画はクライマックスにしている。15年戦争の企業の責任を問う邦画は40年代後半にはまだ撮られていた。その後は殆ど見られなくなったものだ。

舞台は横浜野毛くじら横丁でバラック作り。小沢は黒いサングラスかけて大鍋で煮た贓物かき回し、妙に洋風な下宿のベッドに幽霊のように腰かけて、隣人の月丘千秋に影が薄いわと批評されるが正に正鵠を得ている。怪談得意の中川信夫らしい造形だった。

新聞記者の池辺良が発見し方々取材。小沢は表面上は横領で死んだことになっていた。ブルジョア邸に留まる娘の井川邦子のもみ消し工作が見処。全面否定してからこっそりくじら横丁へ行き、久々の親子対面も冷淡に、死んだままにしておきましょうと遠方への引越しを提案する。まあこんなもんだろう。彼女は臨終に立ち会えずに後悔する。

さらに女優ふたりが正反対の役を割り振られる。山根寿子が好演。小沢邸のお手伝いで死んだ息子と愛し合って引き裂かれてクラブのマダムになり、小沢への憎悪を周囲に叩きつける。子供の相手する時間がないのを嘆き、泥酔して「あたし結婚したいんだ」とクラブでわめき散らして客の失笑を買う件が強烈。事情も知らず失笑するのは残酷なことだ。彼女は元小沢の部下の河津清三郎に救われる。

一方、月丘千秋の陽気な造形はもの凄く殆ど多幸症。幽霊の部屋でエレベーターガールの科白を唱え、石段スキップして登ってピョンピョンピョンピョン。余りのことに齧っていたリンゴを川に放り込んだ池辺は石段を下り、リンゴを拾うのかと思いきや同じ音頭でスキップを始める。へんなシーンだった。古い女と新しい女に映画は未来の希望を描くのだろう。眼鏡かけた月丘の父の東野英治郎は笑福亭笑瓶似。

終盤は自分の孫、山根の子供がいると知った小沢は「倅の血の通った子がいたのだ。命は滅びていなかった」執着し、今わの際に面会して「おじいちゃん」と呼んでもらって昇天する。当時の血縁幻想はここでも奇妙に思われた。伊福部節が作劇によく似合っている。助監督は小森白。

(評価:★4)

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