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[コメント] 港へ来た男(1952/日)

海の男のいい加減な三角関係ものでいかにも拙い作劇だが、端役の左卜全だけは忘れ難い印象を残す。港町にはこんな人もいたのだろう。彼を主役にしてほしかった。鮎川港の近海捕鯨の記録。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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特に語られないがロケ地は宮城県牡鹿町鮎川港らしい。内海で風光明媚。小舟には銛に荒縄のついた捕鯨銃(ボムランス銃。明治から50年代まで使われた由)が固定されており、撃ち倒して曳いて帰り、港で水揚げされ、すぐ様解体が始まっている。こんな小さな木造船で獲るのかと思わされる(船内には二段ベッドもある)。夜中に出港して夕方に帰港の毎日。銃を撃つ映像はたくさん出てくるが鯨曳いて帰る画がないのが不足感。台風のなか7頭捕まえたが無茶だ切り離せ、最後は舵取られて船員が飛ばされ、舵が逆方向に空回りするいいショットがあった。このとき沖70マイルと無電が入っているから112キロ。オーシ、ボースンという用語が出てくる。それぞれ撃ち手、技術職という意味らしい。ラストは南氷洋に出かけて大型船で捕鯨する件もあり、捕獲した鯨を客船なら自動車を積みこむスペースに引き揚げている。鯨の腹にペンギンが乗っていた。大洋漁業と日本水産が撮影協力。

物語は捕鯨船の船長志村喬を名手と慕ってやって来た三船敏郎の友情と確執及び宿屋(兼務で喫茶カフェという看板出している)の女将久慈あさみとの、中年と若いふたりとの類型的な三角関係。

キャプテン志村は日焼けに頬黒く焼けている印象的な造形だが、我儘が過ぎる。捕鯨船は先に追跡した方に優先権があるというルールを破って1千万円するというシロナガスクジラ(普段はザトウクジラ獲っている)をミフネから横取りし、同じ会社だ、逃がしたら会社の損と開き直り、歩合貰えなかった船員が志村らの宴席に乱入。そして台風なのに漁に出てみんなに迷惑かけている。無頼というより嫉妬屋でしかない人物像としか受け取れず拙い。

宿屋買ってやる志村から逃げたい久慈のミフネへの思慕もよく判らない。酔っ払って抱いたではないかと久慈はミフネに主張するがそのシーンは映されず、久慈の妄想と取れる。云い寄られてミフネは眼をそらし、明らかに嫌がっている。久慈はモテない役回りなのだ、可哀想だなあと思っていると収束では何と結婚している。どこで愛が成立したのか不明で拙い。ミフネ的日本男児とはそういうものだとでもいうのだろうか。

序盤謎のまま乱入する小泉博は結局志村の息子で、久慈との結婚に母親の写真を見せて抵抗、しかしこの母が存命なのか死亡後なのか説明がない(再婚するにあたって大違いになる)のが拙い。最後に唐突に和解するのも拙い。田代百合子は可愛いがいつの間に小泉と引っ付いたのか不明で拙い。いいとこなしの作劇だった。 ミフネはいつもの荒くれ正義感。ライフル持っており、子供たちに海へビール瓶を次々と投げ込ませ、それをライフルで次々と撃って割り続けている。そんなこと昔は構わなかったのかと吃驚した。銃刀法が現在とは違ったのだろう。

唯一いいのは左卜全。居酒屋へ、志村の家へと昼夜構わず酒を求めてやって来るよぼよぼの爺さんで、元船長だ、怪我して落ちぶれた、面倒みてやりたいと志村が語っている。漁村にはそういう人もいるのだなあと思わされた。あと、良いのは劇伴で、船員がフレーム外からギター弾くオールド・ケンタッキー・ホームが流離いの西部劇風な味付け。しかしそのくらい。ちょび髭の藤原釜足が出張所所長役。原作は「踊れよ怒涛」。福田純が助監督。

(評価:★3)

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