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[コメント] 荒い海(1969/日)

余りにもかいつまんだ薄味の群像劇で、クライマックスを科白で済ますなど演出放棄としか云いようがない。短縮版しか残存しないので仕方ないのかも知れないが。克明な当時の捕鯨方法の記録だけは見処。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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捕鯨については詳細で本作の美点。頭数減少で割当制限、水域も解禁日も指定されている。合理化とイワシ鯨中心でいこうと会社の会議で指示が飛んでいる。乗組員は炭鉱から来た人や会社潰れて来た人が紹介されている、「給料は半年分まるまる残るから商売始めたい」と語っている。そのような労働者で支えられた職場だったと判る。労働者勧誘フィルムの趣もあるが。船団で出港、赤道通過で余興、

捕鯨の様子も詳細に記録されている。南緯40度着、解禁日待って開始、目標トン数を達成したらすぐさま帰路につく。トップと呼ばれる見張りが手持ちの棒のついた木枠に据えられた双眼鏡で観察、鯨のいる処には鳥がいるとノウハウ伝授。捕鯨袍(鯨に苦痛を与えるから現在では使われない由)撃って鯨は潮吹きもがき、血を流す。この様が後半、荘重な劇伴とともに延々長回しで追われる。白鯨的な感慨を齎そうと企てたのだろうが残酷なだけにも見える。銛刺して網かけて曳いて大型船から甲板にワイヤーで引き揚げられ、すぐにサイズ測って解体、白い肉と赤い血(船腹から海に流される)、内臓が流れ出し、船員は食事に取りたての鯨肉食ってエズく者がいる。肉や内臓は選別され、圧して四角サイズに梱包され、骨は切られている。船団には冷凍船もついている。

物語は相当退屈。群像劇なんだろうが点景ばかりでコクがない。渡哲也だけでももっと掘り下げたらどうなんだろう。彼は学生デモで逮捕されて休学して悄然として帰省した、ドライバー持っていたのが問題視されたと語っているがそれはヤバかろう。中卒でボロ漁船に乗っている兄伊藤初男と喧嘩になり、お前たちを食わせるために働いてきたと説教され覚醒、伝を頼って捕鯨船でバイト。学生運動家のその後の身の振り方への提案という気もする。

後は田村正和の阿呆兄ちゃんが面白い。仮病使って逃亡企んで失敗して、がま口取っただろうと渡に因縁つけて見つかって土下座している。いろんな人物が乗船したのだろう。他は高橋英樹の産みの親左幸子登場とか、シンガポールで彼の父の自決場所に立ち寄って感慨覚えるとか、長崎の被爆者とか、つまみ食いの断片ばかりで、折角の和泉雅子もつまみ食いで詰まらない。まあ海洋映画の女優はそんなものだけど。

船団長西村晃は軍隊時代に部下全滅させて勲章もらい、生き残りの永井智雄は海に酒流して追悼、西村も不漁なのにその海域を離れず、ふたりの確執はいつの間にか和解して乾杯している。これだって2時間かけて描くべき題材だろうにいかにも彫りが浅い。

最悪なのはタンカー爆破の報を受けての救助作業。さあクライマックスのスペクタクルが始まるかと思いきやなんと科白だけで済まされ、渡が外国人を小舟で護送するだけ。活劇ファンでなくても、いくらなんでもこれはなかろうと思われた。予算不足なら身の丈にあった作劇にすべきだろう。

渡は最後、労働の価値に目覚め、「丘にあがったら色んなことが違って見えるかも」と復学を決意、「この平和は大東亜戦争の犠牲者の賜物」とか突飛なことを口走り(西村や高橋が云うのなら判るが)、平和を大切にしたいとごちる。全学連のドライバー活動の反省なのだろう。海外上映用の短縮版しか残存せず(183分が130分に短縮)、いろんな要点が切られているのだろうが、少なくとも現存版は見処がない。

(評価:★2)

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