コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] 余命10年(2021/日)

ファーストカットは桜の花。ゆっくりとトラックバックすると(ズームアウトではない)、病室の窓越しに撮影していたと分かるカットだ。本作は、何度も桜の木が登場し、重要な見せ場を作る。日本映画だなぁと思う。
ゑぎ

 小松菜奈坂口健太郎が、初めて二人だけで歩く場面なんて、桜とその花びらで、特別感のあるシーンを上手く造型している。突風の表現と高速度撮影。分かりやすいサイン。でも、この演出の前の、桜の木の後景に電車を走らせたカットが既に良いカットなのだ。

 あるいは、イチョウの木も見せる。小松がイチョウ並木で倒れるシーン。倒れた後、唐突に真俯瞰カットが繋がれる。桜と共に、木のある道の連関を想わせられる、豊かさを感じる画面造りだろう。

 さて、本作の開巻は2011年で、ずっと時系列に繋いで見せ、最終盤まで回想形式、フラッシュバックを一切用いない。この構成にも好感を持つ。尚且つ、最終盤のフラッシュバックも、いわゆる回想ではなく、小松が撮影したハンディ・ビデオカメラの映像を、小松が見る場面であり、さらに、未来に対するイメージ映像が繋がれるのだ。こゝは、私は若干冗長にも感じたが、これのおかげで、感極まるという観客は多いだろう。ビデオカメラ映像の活用という部分では、『8年越しの花嫁』を想い起こした。

 また、脇役陣含め皆見事なキャラ造型で、違和感を覚える人物は一人も出てこない、というのも、本作の完成度の高いところだが、小松の家族を演じる、松重豊原日出子黒木華の三人が特にいい。とりわけ、黒木華の毅然とした態度に心振るわせられた。

 上で『8年越しの花嫁』を引き合いに出したので、ついでに、もう少しだけ比較すると、本作には、あの映画のような抜けの良い画面が無い、という点が大きな違いだと思う。つまり、本作の画質は美しくない(すっきりしていない)。多分、作り手はこれを志向しているのだろう。私の好みは、もっと抜けの良い画面だ。それと、場面転換で、ドローンによる大俯瞰ショットを度々挿入する選択も、私には、ありきたりな感覚、さらに云うと、本作には似つかわしくないものに思えた(あまりに叙事的な画面に違和感がある、というか)。

#『8年越しの花嫁』は岡山や小豆島など瀬戸内が舞台。本作は上野、日暮里、江東区常盤あたり(同窓会は、三島だが)。この違いが「抜け」の違いに反映されているのかも知れない。

(評価:★3)

投票

このコメントを気に入った人達 (1 人)ダリア[*]

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。