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[コメント] 仮面の女(1959/日)

50年代の『GO』だろうか。意味合いに差異はあるが、度し難い時代の常識、無知の通念において共通する。この頃の阿部豊は問題作連発、同時代に評価されていないのは右翼寄りだったからなんだろうが本作は特にいい。岡田眞澄のコメディも秀逸。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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福島は飯塚温泉(当時から夜のネオン華々しく町にはいい風情がある)で知り合った銀座のクラブのエース筑波久子と大学助教授の葉山良二は相愛の仲になるが、最後に赤線の女だったと筑波が告白すると、葉山は豹変、「別れよう」「俺は騙されていたんだ」「汚い。触らんでくれ」「君の体にはたくさんのオトコの濁った血が流れているんだ」。捨てないでと泣く筑波に葉山は一転、許してくれと謝るのだが、翌日に葉山は海外長期出張の申し出を受け、筑波は田舎に帰り、葉山は駅に駆けつけるが逢えず、映画は終わる。「血が汚い」は『GO』を想起させる。

ふたりがクラブで偶然再会するのは悪い運命だった訳だ。葉山は渡辺美佐子を筑波と見間違うヘンな二重写しがあるほど惚れている。病気の妻があるが筑波を妾に取るのは、大した倫理観のオトコではないのだ(助教授はそんなに儲けがあるのか疑問だが)。筑波は秘密をどう告白しような悩み続ける。初めて抱かれるときに語る「誠はあるの」がいい。父は満州の軍人で戦死、兄たちは開拓団に入ったが耐えられずに東京へ逃げたとまでは告白するがそこから先は云えない。妾になり裁縫学校に通わせて貰ってミシンを踏んでいるのが時代だ。

本作は街のオンナたちを種々描写し、筑波の外延としている。この世界から売春防止法で筑波は足を洗ったが、姐さん南田洋子を間において、昔の赤線仲間との因縁が切れない。赤線のときの客に見つかって関係を強要され、仲間とニヤつかれる件などいたたまれない。街娼で儲けて貯金が生甲斐の奈良岡朋子の淡々とした造形がリアル。彼女ら相手に洋服掛売する大坂志郎の佇まいもリアルだった。大坂が筑波に親切という序盤の振りは生かされずに終わったし、奈良岡殺害が岡田ではなく大坂という謎解きはあんまり意味がなかったように思う。何にせよクンズホグレツの関係世界ではあった。

筑波に赤線勤めさせた岡田眞澄のチンピラが面白い。逃げようと引越しする筑波の現場に現れて引越し屋のオート三輪の荷台に飛び乗って速攻で隠れ家突き止め「あんたのしつこいのには負けたわ」「昔から俺は押しの一手だ」。四畳半のアパートで洒落た格好で胡坐かいて丼飯喰らい、逃げた筑後のアパートの前で張りこむ。このときの「甘いもの屋」の店員葵真木子との丁丁発止が最高に可笑しい。一番甘くないものとミルクを注文し、ミルクの杯を重ねて呆れられ、アパートからの帰りに通りかかるとまたミルクかと尋ねられる。奈良岡に遊ばないと誘われて同衾して、帰りにカネ払う払わないで喧嘩になり首絞めるのだった。観ているには愉しいが実生活では会いたくない造形であった。

(評価:★5)

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