[コメント] ナイトメア・アリー(2021/米)
このように、前後半でかなりムードの異なる映画なので、前半は良かったが、後半はイマイチ、あるいは、その逆に感じられる、というように、見る人の好みによって前後半の感想が変わる映画だと思う。私はどちらかと云いば、後半が良いと思った。
多分、ギレルモ・デル・トロらしさを期待する観客には、前半の奇矯さの方に満足感を味わえると思うのだが、それでも、ギーク(獣人)についても、エノク(胎児のホルマリン漬け)についても、道具立てとしては、イマイチな使い方じゃないか。あるいは、私は前半の撮影・演出は、こなれていないように感じた。特に、人物へのドリーでの寄り引きの繰り返しがワンパターンで、飽きて来たし、屋内(例えばトニ・コレットとデヴィッド・ストラザーンの小屋の中など)の広角レンズの多用も、嫌な画面だと思いながら見ていたのだ。朝の陽の光の中で、屋外舞台の前に座ったルーニー・マーラへのドリー寄りなんかはいいと思ったが。
後半に入ると、カメラの動きも広角レンズもあまり気にならなくなった。背景が大きな都会だったり、邸宅だったりするからかもしれない。というワケで、後半の良さについて、私はまずは、セット(美術装置)の豪華さ・美しさをあげたい。ケイト・ブランシェットの診察室内やリチャード・ジェンキンスの邸内なんかも豪奢だが、むしろ、ブランシェットのオフィスがある建物の廊下だとか、あるいは、ブラッドリー・クーパーがマーラと一緒に逗留しているホテルの廊下の壁なんかが、デル・トロらしい禍々しい装飾・色遣いじゃないだろうか。あと、後半は、雪のシーンが多く、ブランシェットの部屋の大きな窓の外に、吹雪のような雪が舞う演出が施されており、窓および雪の画面も見応えがあるのだ。ただし、もっと雪降らしが上手かったらいいのに、と思ったカットもあったけれど。
あと、1947年版(『悪魔の往く町』)でも感じたが、本作の最も美味しい役柄は、やっぱりブランシェットの役なのだ。ヒロインとしてのマーラも、赤色系の衣装の統一(例えば、セパレートの水着タイプの舞台衣装や後半の雪の中のコート、そして、腕の血!)なんてところで、凝った造型を感じさせるが、退場シーン含めて、ブランシェットに比べると、やり切った感が足りない。また、チョイ役だが、判事の妻役のメアリー・スティーンバージェンは、ワンシーンのみの登場かと思っていたのだが(それでも嬉しかったが)、再登場して忘れ難き演技を見せる。こゝは、私が後半が良いと感じるポイントでもある。
そして、ジェンキンスの側近、ホルト・マッキャラニーのコワモテのキャラクターや、さらに、ヤケクソになって笑いながら、運命を受け入れる(?)というのも、1947年版よりもビターで、いかにも犯罪映画らしく、私には満足感があった。デル・トロの最良作ではないが、十分に見応えのある映画だと思う。
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