[コメント] 林檎とポラロイド(2020/ギリシャ=ポーランド=スロベニア)
映画を見終った人むけのレビューです。
これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。
被写界深度の浅い撮影が目立ちます。主人公の「世界」が狭いことを意味しているのかもしれません。結論を先に言ってしまえば、「記憶」をめぐるストーリーですが、主人公が探しているのは「自分の世界」である気がします。記憶とは、個人の人生=世界そのものですから。
映画の序盤、主人公が花を手に花屋から出てきます。このシーン、ほとんどピントが合っていなかったと記憶しています。おそらく、彼の「世界」は既にぼやけていたのでしょう。カットが変わると、完全に記憶をなくしてバスの中で発見されるシーンになります。なお、この時の花は、映画終盤、すっかり枯れた状態でお墓の前で再登場します。おそらく彼は、墓参りの帰りのバスで発見されたのでしょう。そう考えるとこの映画は、「墓参りと墓参りの間の物語」であることが分かります。ということは、この墓の下にいる人が、彼の記憶喪失の要因であり、彼の人生という「世界」の核であった、というわけです。
実に周到な映画です。
「その指示、なんなん?」と書きましたが、「刺激」を与えることが目的なんでしょうね。車をぶつけたり、高飛び込みとかパラシュートとか。そうした物理的な刺激だけでなく、精神的な刺激もあります。死を看取るのはその一つ。そしてそれが、彼の失った「世界」を取り戻すきっかけになるのです。
「物忘れ防止の効果もある」と果物屋に言われて、林檎を買わないシーンがあります。物語も終盤近くだったでしょうか。主人公は、「忘れたい記憶がある」ことを「思い出した」のです。それでも彼が「指示」を続けるのは、記憶を取り戻すためでなく、新しい生活という「自分の世界」を得るためだったかもしれません。
いい映画というか、興味深い映画でした。
(2022.03.13 新宿武蔵野館にて鑑賞)
(評価:
)投票
このコメントを気に入った人達 (3 人) | [*] [*] |
コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。