[コメント] ツユクサ(2022/日)
とても優しい映画だった。人生において最大級のキズを負った人たちの心情を、悲観的にも感傷的にもならず描く誠実な語り口。いつか見つかるかもしれない光明のために、キズ負い人は淡々と“明るく”ふるまうのだ。みんな、頑張らないように日々頑張っているのだ。
人生の不幸を引き受けるとはそういうことだ。この良質な日常感(平凡さ)が、とてもリアルなのだ。
一億回に一度だけ起こり得る突飛な「隕石の逸話」によって安倍照雄が物語(脚本)の背景に仕込んだん“偶然の肯定”が面白い。私たちの日常は壮大な宇宙の営みの一部だということ。宇宙から巨視的に見下ろせば、私たちの短い人生なんて偶然に支配されているのだということ。私たちの許容を超える悲しみや喜び、別れや出会いは、必然ではなく突き詰めれば偶然なのだという真理。
偶然を肯定するということは人の弱さを認めるということだ。人生では自分ではどうにもならないことが起きるということ。でも、それは悪いことばかりではないということ。良いことだって偶然に訪れるものなのです。そう、この物語は優しく語りかけてくる。
悲しみを表に出さない芙美の悲しみ。その悲しみは、友人の息子航平を通してふと顔を出す。そんな芙美を小林聡美が飄々と演じて実に“らしく”て上手い。腕白顔に無邪気な希望と不安を素直に浮かべる航平役の斎藤汰鷹君も好い。15年前ぐらい(『花田少年史 幽霊と秘密のトンネル』のころ)の須賀健太君を思い出してた。 松重豊、江口のりこ、平岩紙も適材適所で、その個性を過不足なく発揮して物語に深みを加えてた。
そんな脚本と役者たちを、港町の光をたっぷり取り込んだ撮影監督安倍照雄の明るくきキビキビした画面が心地よく包む。さらに随所で繰り返されるフレームイン演出がさりげなく“偶然”の予感を漂わせる。平山秀幸監督の力まない演出が冴えた好作品でした。
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