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[コメント] オフィサー・アンド・スパイ(2019/仏=伊)

紙、紙、紙の接写に底知れぬ力がある。この薄っぺらく脆いものに託された記録が真実を語りサルを人類にする。ポランスキーの演出は充実しきっており、1秒も退屈するところがない。
ペンクロフ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







扉、窓、煙草、鍵、引き出し、鞄などのありふれたつまらないものに意味が生じると画面がグッと締まって映画になる。「画変わり」という点で不利な題材でも、いやあ贅を尽くした映画を観てるなあ! という気分になるのはそのためだろう。

120年以上前のフランスの話なのに、現代の日本で思い当たる部分が多々あって頭を抱える。公文書を破棄するような土人国家にはもったいない映画です。

休暇中の将軍を訪ねると、田舎の屋敷で庭掃除している。あ、この人は軍人である前に人間なんだと感じる。いい人かもしれないとさえ思う。しかしピカールがドレフュスの冤罪を訴えると、「忘れろ」。将軍はすっかり組織のイヌの顔になっている。これは怖いんだよな。これは本当に怖い。

元部下のクソ野郎アンリとの決闘場面。デブに剣術は不利だよな。相撲或いはレスリングで勝負していたら、ピカールが負けて歴史が変わっていたかもしれない。

最強弁護士ラボリが襲撃される場面。ピカールと2人で歩くその背景、ピンボケの中を追いすがってくる人影。あ、あいつヤバいぞと我々観客だけが気づく。志村、後ろ! ラボリが撃たれる。これをワンカットで見せる。ああ、今オレは映画を観てるのだ! という充実を感じる。

バカなのでひとつ判らない場面があった。映画の後半、ピカールが自室で目覚めて窓を開けると、向かいの建物の窓が開いて、そこにはやはりピカール同様に寝起きのおっさんがいる。江戸川乱歩の傑作短編「目羅博士」を連想させるような鏡あわせで、ちょっと忘れがたい、なんとも不思議な味わいの場面だった。あれ何なのでしょうね、あの場面の意味するところは何か。あのおっさんは誰だったのか。それでなくてもこの映画、ヒゲのおっさんだらけでなかなか判別が難しいところがあったからなあ。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)ペペロンチーノ[*] ゑぎ[*]

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