ロジカルでありながらエキセントリックなカメラワークで度肝を抜いた傑作『殺さない彼と死なない彼女』とは、あまりにも対照的なシンプルな演出に良い意味で驚いた。お約束の感情過多や、照れ隠しの破綻に陥りがちな小さな世界の恋愛ファンタジーだが、その轍を踏まず本作は嫌味のない爽やかな仕上がり。このバランス感覚はなかなかのものだと思いました。

これは『殺さない彼と死なない彼女』から参加する若いスタッフと、彼らを使いこなす小林啓一監督の手腕ではないかと感じます。撮影の野村昌平と美術の竹渕絢子はともに1982年生まれ。野村は映画、CM、MVのフリーランスの撮影助手出身。竹淵もCM畑や『空気人形』の美術助手だったそうだ。さらに今回からの参加だろうか、1990年代生まれの阿部公美の衣装も本作のあか抜けたトーンを支えていた。この小林組(今どき、そんな言い方するのだろうか）の今後の仕事が楽しみです。