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[コメント] 秘密の森の、その向こう(2021/仏)

セリーヌ・シアマの実力に惚れ惚れする。これは前作『燃ゆる女の肖像』と打って変わって、極上の掌編小説の趣き。しかし、本作も映画的なスリリングな画面に溢れている。
ゑぎ

 まずは冒頭ファーストカットがシーケンスショットで、施設の各部屋に「サヨナラ」を云って回る主人公の少女(ネリー8歳)をずっと追いかけた長回し。カットを切り換えて、窓外を見るママの後ろ姿にタイトルインする、このショットがまたカッコいい!続く自動車で移動するシーンも何かが起こりそうな張り詰めたムードで、このあたりも上手いなぁと感じさせるのだ。

 お祖母さん(ママのお母さん)の家でのママとの会話も意味深で、ベッドの端の黒豹の話や、夜中にソファで「ちゃんとサヨナラを云わなかった」と云う部分が後に効いてくる。翌朝、ママはいなくなるのだ。そして、不思議な世界は、ネリーが古いパドルボールを見つけるところから始まる。庭で、ボールを思いっ切り打ち抜くショットが素晴らしい運動のショットだ。そして、紐が切れてボールが飛んで行ったことで、ネリーは8歳のマリオンと出会うのだ。

 さて、ネリーとマリオン、演じる二人は双子なのか!私はこの予備知識なく見たので、最初、よく似ているけど、マリオンの方がちょっと可愛いかな、と思ったではないか。さらに、観客を幻惑するために、途中で二人を入れ替えているのかとも思いながら見た(その疑問は今も捨てきれない)。マリオンの家では、廊下のクローゼットがまた効いてくるし、マリオンのママの杖、クロスワードパズルの趣味、あるいは、マリオンが3日後に手術を控えていることや、演劇がとても好きで、将来、女優になりたいと思っていることなどが、とても感慨深く感じられる。まったく説明的な描写はないので、想像の域を出ないが、マリオンの今後の人生に思いをはせてしまうのだ。このあたりも実に上手いところだろう。

 あと、ネリーとマリオンが湖でボート遊びをするシーンがあるが、このロケ地は、ギヨーム・ブラック宝島』でも出て来た場所だ。いずれも、湖の真ん中にピラミッドがあるので、同じ場所だと分かる。ちなみに『宝島』ではリゾート地として若い男女が沢山集まっている場所だったのだが、本作の閑散とした風景とどちらが真実の姿だろう(シーズンオフはこうなのかも知れないが)。『宝島』は曲がりなりにも、ドキュメンタリー映画なのだが、どちらが真実か分からないと私は思う。映画とはそういうものだからだ。

#ロケ地はセルジー・ポントワーズ。IMDbにも記載されている。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)disjunctive[*] ぽんしゅう[*]

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