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[コメント] ザリガニの鳴くところ(2022/米)

湿地と葦。まず冒頭、アオサギ(と思う)と一緒に飛翔するカメラに驚かされる。いくつかカットを換えるが、アオサギを映し続けながらのクレジット。CGでの造型だと思うが、いいデザインじゃないか。
ゑぎ

 こういう、いかにも特殊効果が必要というワケではない場面で、効果的にCGが使われる、というのが、映画におけるCGの幸福な活用法のように私は思う。本作の中には、同様の感慨を覚えるシーンが他にも複数あり、例えば、主人公(ヒロイン)のカイア−デイジー・エドガー=ジョーンズが、友人のテイト−テイラー・ジョン・スミスと二人でハクガンの群れを見るショットや、同じ二人のシーンで、落ち葉が小さな竜巻のような風で舞い上がる場面も、極めて美しいCGの演出だと指摘することができるだろう。

 また、本作も全編に亘って「隠す」「隠れる」というモチーフが描かれている映画だ。いや、本作はミステリーであり、裁判劇でもあるのだから、そんなこと当然だろう、と云われるかも知れないが、そういったジャンルに付き物、といったレベルを越えた、意識的な描かれ方だと思える、ということです。だいたい、「ザリガニの鳴く場所」というのが、父親(男性)の暴力から逃れ、隠れることができるぐらい遠くの場所、を意味している。さらに、主人公カイアの登場は、木の陰に隠れていて、画面奥を見ている後ろ姿(顔が隠れている)から振り返るショットだし、彼女が、木の陰や葦の陰に隠れるシーンが、他にも全編で4〜5回は出てくるのだ。そして決定的なのは「貝」「貝殻」のモチーフだろう。貝という生物自体が、隠蔽の装置ではないか。

 さて、プロット的には、捜査や裁判場面と、殺人事件に関わるまでのカイアのフラッシュバックのような回想形式で進行する映画だが、ミステリー部分以上に湿地帯におけるカイアの生活描写や、貝や野鳥、昆虫といった自然への興味を綴った描写が良いと思った。裁判劇は、果たして、殺人事件なのか事故なのか、殺人であれば、誰が犯人か、ということが焦点となるのだが、こゝでは勿論その結末は記述しないけれど、しかし、最終盤の真実の見せ方は、私は鳥肌モノだった。真実が何か、ということ以上に、時間経過も含めた「見せ方」(つまり演出)のことを云っている。例えば、友人のテイトに関する中盤の扱いなど、もう少し丁寧に描くべきではないかと思わせられる部分もあるのだが、ラストの演出でポイントを上げる映画だろう。エンドロールのBGM、テイラー・スウィフト歌唱の余韻もいい。

(評価:★4)

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