普段は聞こえていても意識に上らない音を入れ込んでくる。つまり不自然に思える。意識的に不自然を音で演出している。主人公は音の聞こえない人だからだ。最初の縄跳びの音を最後にも微かに入れてくる。私はやりすぎだと思った。　

　音楽は同室の弟が弾くギターの音だけだが、これも部屋に入る前からなっている。つまりカットをつなぎ心情の持続を表す効果音として使っている。それは雑踏や電車や風の音が映っている画面でなっているという暗黙の了解を破っている。ここだけ普通の映画のような使い方だ。終わり頃に、同じく弾き語りの音楽にCMの映像のようにカットが続くシークエンスがある。ここでも全体の寡黙で禁欲的な方法を破って、普通の映画のように画面が歌っている。やれば当然できるんだ。

　主人公のノートの絵を見せて、という流れでそのまま日記を読んでいく。随分と無神経な音読だ。このノートは、なんでボクシングを続けるの？と聞かれても見せなかったノートだ。それをためらいもなく読んでいいのか。一休みしたい、と1行だけ見せて、最後の方で全文見せる、そうした構成もあざとく映る。岸井ゆきのが、2試合目でノックアウトされる寸前に吠える。これと三浦友和の所作で一度だけ笑う。そこはすばらしかった。河川敷の映像、路地裏の映像、いずれも風景はすばらしかった。