[コメント] シャドウプレイ〔完全版〕(2018/中国)
映画を見終った人むけのレビューです。
これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。
この監督の作品を観るのは初めてなのですが、おそらく「今の中国」を描きたい人なのでしょう。
ただ、終点は2013年だったか14年。映画製作開始が2016年、ひとまず完成したのが2017年だそうですから、5年から10年前の「今」。完成後、当局の検閲で2年間修正が繰り返されて2019年にやっと中国で公開されたそうです。おそらく当局としては、「5年も昔の話で、今の中国の姿ではない」「習近平国家主席以前の話だ」という決着なのでしょう。そうした検閲でカットされた数分を復元したのが今回の「完全版」なのだそうです。
習近平以後の中国も様変わりしますがそれは別として、90年代から始まった中国バブル経済はかの国を一変させました。ロウ・イエが撮りたかったのは、たぶんそこです。廃墟に近い古い街並の隣にビル群が立ち並ぶ風景。んー、それ、押井守が『パトレイバー』で30年前にやってる。
いや、この国はさあ、体制のせいでいろいろ遅れてたけど、やり始めたら極端だし規模も大きい。それがメリットでもある一方、この国の「歪み」にもなるんだと思うんですよ。その歪みが顕著になったのがこの映画で描いている時代なのでしょう。
リアルな描写で「描いている内容もリアルなんだよ」と言っているのが分かりますし、社会派と娯楽性が共存していることも評価します。ただ、この映画の娯楽性(ストーリー)は、2時間サスペンスを観る帝王の私に言わせれば大した話じゃない。渡瀬恒彦や船越英一郎が日々解いているレベルの謎だし、悲しい女たちだって中山忍や国生さゆりで散々見ている悲哀でしかない。さらに言うなら、緩急が無くずーっと「急」なもんだからダイジェスト版を見ている気分。「完全版」なのに。「急」な勢いに任せて結構雑な気もするんですよね。その犯人がその犯行現場に潜り込むのは無理がないかい?
時系列が複雑に交錯する作品は好物だけど、この映画は時系列が行き来して種明かしをしているだけで、伏線やその回収という映画的な面白さには繋がってないように思うんですが、どうだろう?
(2023.01.28 吉祥寺アップリンクにて鑑賞)
(評価:
)投票
このコメントを気に入った人達 (1 人) | [*] |
コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。