[コメント] イニシェリン島の精霊(2022/英)
一方は受け継がれ永遠に残るのは「優しさ」だと言い、片や「創造性」だと主張する。守るべきは平穏な"今"の幸福か、新たな"次"への意志か。どちらも正しい。そもそも比べることじゃない。相手を理解することを放棄した意地の張り合いは理性を失い後戻りできなくなる。
理由も判然とせず得心もいかない突然の決別宣言。仕掛けたコルム(ブレンダン・グリーソン)にとって、それは積年に渡ってため込んだ思いの行使なのでしょう。仕掛けられたのは、仕事終わりの午後2時から酒を飲むことがすべてな男パードリック(コリン・ファレル)。変わりたい男と変われない男。二人の間に持ち込まれたのは当初は「決別」だったはずが、いつしか「対立」へ向かい、ついには憎しみさえ芽生えてしまう。
まさにこの状況は「内戦」の暗喩。
石造りの家の室内は薄暗く夜なのかと思わせるが、扉が開いたり窓外の風景が見えた瞬間(決して陽気ではないが)明るい海辺の光が目に飛び込んでくる。執拗に繰り返されるその暗と明のコントラストが印象的だ。そして戸外のなだらかな海辺の丘陵をうねるように続く道は開放的なようでいて、両側を低い石垣(?)に挟まれ閉鎖的だ。道端に忽然と立ち海の向こうを臨むマリア像の全身はいつも映されない。そんな描写が頻繁に繰り返され、倫理へ導くべき神父は権威をなくし、規律を司るはずの警官は強権を笠に着て、死神と呼ばれる老婆が跋扈する。
混乱し続けるファレルの顔に張り付いた「八の字眉毛」を見続けながら、私も一緒に途方に暮れてしまった。
・・・・
船から妹(ケリー・コンドン)が見た人影は確かにアホの子(バリー・コーガン)にも思えますが、私は彼のたどった顛末が自身の過失や事故ではなく・・・・。なので、妹を見送る死神婆さんじゃないかと思いました。
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