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[コメント] パラレル・マザーズ(2021/スペイン=仏)

毎度のことながら、本作もメチャクチャ美しい色遣い。部屋の内装、例えば壁やカーテン、あるいは調度品。また人物の衣装も含めて、屋内シーンは色彩に見とれながら、うっとりしながら見る映画だ。
ゑぎ

 勿論これは私の好みに合致する特質なのだが、だが、この画面造型は、描こうとしている事柄とつり合いが取れているのだろうか、本作はそういう疑問もわいてくる映画だと思う。主人公ジャニス−ペネロペ・クルスはカメラマン。タイトルは、二人の母親、少し抽象的だが、同時に進行する二つの母性、というような意味で描かれている。二人とは、ジャニス−クルスと、彼女が産院で知り合い、同日に出産した若いアナ−ミレナ・スミットを指す。共にシングルマザーだ。プロット展開について、公式サイト含め、多くの映画サイトで、子供の取り違いが描かれていることは記載されているが、そんなキーワードだけではおさまらない、かなりヒネリの効いた展開が待ち受けているので、ずっと興味を持ち続けて見ることのできる、スリリングな作劇だと思う。

 細部の描写で唸ったのは、ジャニス−クルスのアパートの玄関ドアの使い方で、その覗き窓の意匠なんかも印象深いが、ドアを挟んだ急な来訪者の見せ方で、異なる時間軸のシーンを二つ繋げる部分だ。あと、中盤、クルスがいきなり、スマホの電話番号を変更するのだが、誰と断絶したかったのか、という小さな謎の描き方も、良いアクセントになっていると思う。結局、後先を考えない、ほとんど衝動的な行動だったのだろう。

 あと、スペイン内戦時の遺骸の発掘に関する部分については、クルスとアルトゥロ−イスラエル・エレハルデを結び付けるという点において作劇上機能しているが、終盤の発掘のシーケンスは、やはり、こゝだけ浮いていると私も思った。ただ、私の感覚で云うと、重要な社会的テーマを付け足しのようにくっ付けるのはいいとしても、もっとクルスと曾祖父ら犠牲者の結びつきを感じさせるような描き方にできなかったのか、さらに敷衍して、ジャニス−クルスやアナ−ミレナ・スミットと子供たちとの関係にも思いが及ぶような見せ方をすべきではないか、という感想を持った。ガラガラの使い方だけでは弱いのではないか。もっと単純に、この発掘シーケンスよりも、ジャニスとアナの関係の修復について、丁寧に描いて欲しかったとも思う。

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)ぽんしゅう[*]

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