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[コメント] 未来への迷宮(1935/露)

もうすぐ無階級社会、亭主はソ連政府から別荘与えられた外科医。太ったブルジョア婦人が素っ裸で泳ぎ出し、チャップリンそっくりの居候と複雑な目線の交換。円盤投げにパイ投げ。「共産主義のファシズム的解釈だわ」。なんかもう無茶苦茶な映画。監督は粛清された由。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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無茶苦茶とは私の無理解による感想なのだろうか。本作の主張が奈辺にあったのか見定めるのが私には難しかった。共産党に別荘貰って優遇されている外科医ステパノフ、という導入は、彼が批評される展開が容易に予想されたのだが違った。彼が無階級社会を粛々と受け入れるのが、妻の浮気を許容する態度と並行して語られる、ということだろうか。

青年は青年共産同盟に来る。屋外では『ベンハー』みたいな四頭馬車の競争や、円盤投げなどギリシャ風の競技の練習風景。「美は弁証法的な概念だ。ひとりでは判らない、相手に伝わって初めて判る」みたいな深い会話。コップをひっくり返してテーブルを水浸しにして大笑いしている実に変わった娘。

居候のチャップリンは外科医のお気に入りの親友。「私は不平等の強調者」と自称し、主人の好きなワインのブランドは「政府だ」と云い「夫人は君を捨てんよ、贅沢を覚えたから」と語る男で、娘と喧嘩して、外科医はパンツ一枚になりここまで印象的だった門扉に昇り、円盤投げの要領でパイ投げをはじめ、パイは居候に命中し続ける。最後は可愛がっていた犬に追われて退場する。ルンペン代表のはずのチャップリンがブルジョア的というのは皮肉が効いている。

オリガの手術、ドリーで引きまくるキャメラと両側に溢れる見学者、外科医の執刀。オリガは助かる。「不幸の根絶とは資本の絶滅だけでなく、真の人間が住まうことだ」と外科医は纏める。「愛を生み出さない愛は不毛」というマルクスの言葉が引かれる。

序盤に夫人は青年とのアバンチュールがある。散歩道をふたりで歩くのを外科医は眺めている。最後も妻とこの青年は散歩をしていて、ふたりはキスをして、妻は戻ってきて外科医にキスする。妻は青年を捨てて戻ってきたのか、原始共産制的な恋愛が描かれたのだろうか。

撮影はとても意欲的、バレエのダンス会場を青年が燕尾服借りに屋根裏部屋へ昇るのをキャメラは延々追うのも凄い。クレーンではなく壁の昇降機に取り付けたのだろう。このショットも印象的。科白や音楽のない部分は全くのサイレントになる初期トーキー。ひょっとすると大傑作なのかも知れない。

(評価:★4)

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